連載【ミックス&マスタリング入門】第8回目では、本ミックス前に終わらせておきたいことについて解説しました。
今回から、本ミックスに入っていきます。流れに沿って作業を行ったり来たりしながらミックスを詳しく解説するだけでなく、定番を中心に必須のプラグイン・エフェクトの解説もしていきます。
ミックス作業の順序
ミックス作業の順序に決まりはない
たくさんのトラックがありますので、DAW初心者だと何から手を付けて良いのかわからないかもしれません。
しかし、ミックス作業の順序に決まりはありません。
ドラム、ベース、上モノといったように積み上げる形で作業する人もいれば、楽曲の中心であるボーカルを基準にミックスしていく人もいます。
今回のプロジェクトのミックスは、ボーカルから手を付けていきます。
センターに位置するトラックのボリューム調整
まずは、センターに位置するトラックの確認から始めましょう。
今回の楽曲は、メインボーカル、ベース、キック、スネアドラム、そしてイントロや間奏のリードギターからなります。
メインボーカル、ベース、キック、スネアドラム以外のトラックはすべてミュート状態にして、MIX Consoleウィンドウのフェーダーを使ってボリューム調整をしていきます。
音の大きさの順番としては、ボーカル→スネア→キック→ベースとなります。
ボリューム調整だけなので、決して難しくはありませんが、ボーカルが主役であることを強く意識して調整しましょう。
ボーカルのエフェクト処理①ダイナミクス系
コンプレッサーの前のEQでカット
ボーカルトラックのエフェクト処理に入っていきます。
ボーカルトラックの処理は「コンデンサーマイクで録音されたか」、それとも「ダイナミックマイク録音されたか」など、レコーディング状況によっても変わります。
ダイナミックマイクの場合はそれほど気にする必要はありませんが、コンデンサーマイクは感度が高いので、空調の音までも拾ってしまい、「ゴー」「サー」というようなノイズが、ボーカルトラックに含まれている場合があります。
その状態のままでエフェクターを掛けてしまうと、ノイズも一緒に大きくなってしまいます。
もしボーカルトラックにノイズがある場合は、コンプレッサー(以後、コンプ)の処理の前に、EQ(イコライザー)をインサートして、気になるところはカットしておきましょう。
60Hz前後をローカットすると、ほとんどの場合でボーカルの空調ノイズはカットすることができます。
ボーカルにコンプを掛けてレベルを整える
まず最初に、ボーカルトラックのレベルを、コンプを使い整えます。今回はIK Multimediaの「T-RackS 5 Black76」を使用しました。
「Black76」はハードウェアの名機「UREI 1176」をエミュレートしたプラグインで、ボーカルのレベルを自然な感じに整えてくれるだけでなく、明瞭感を出すこともできます。
「Black76」と同じく、「UREI 1176」をエミュレートしたWAVESのプラグイン「CLA-76」も一度立ち上げましたが、今回のボーカルにはWAVESよりも「Black76」のほうがフィットしました。
チャンネルストリップでボーカルの質感を整える
コンプ「Black76」でボーカルのレベルを整え後に、SSL(ソリッド・ステート・ロジック)のSL4000のチャンネルストリップをモデリングしたIK Multimedia「British Channel」をインサートしました。
初心者の方は「Black76」と「British Channel」の2つのプラグインでダイナミクスを調整するだけでなく、メインボーカルの音を作るイメージで作業して下さい。
チャンネルストリップのEQとコンプを使っていますが、コンプは「Black76」も使用しましたので、コンプの2段掛けとなっています。
「Black76」のコンプの主な目的がレベルを整えることに対して、「British Channel」のコンプは質感を整えるのがメインです。
EQセクションでは、10KHzと1.5KHzを少しブーストして、400Hzをカットしました。
他のパートとのバランスを取りながら作業
ここまでの作業は、ボーカルトラックだけをソロ再生するのではなく、センターに位置するベース、キック、スネアドラムもソロ/ミュートを切り替えて再生しながら行っています。
ボーカルのエフェクト処理で音が大きくなったので、センターの各トラックのボリュームの微調整も行っています。
DAWマストアイテム 1176系プラグイン
1176をエミュレートしたプラグイン
今回のプロジェクトのボーカルのコンプで使用したIK Multimedia「T-RackS 5 Black76」などの1176系プラグインは、歌モノの楽曲制作をしている方は持っておいたほうが良いプラグインです。
ハードウェアの名機「UREI 1176」は「ナナロク」と呼ばれ、いろいろなメーカーからモデリングした1176系プラグインが発売され、現在でもボーカルトラックの定番コンプとして使用されています。
スレッショルドレベルが固定されている1176系コンプは設定が難しくなく、インプットレベルを上げることによってコンプが掛かる仕組みになっています。
音はメーカーによって違う
各メーカーから1176をモデリングしたプラグインは発売されていますが、音はメーカーによって違います。
WAVES「CLA-76」は世界的に有名なエンジニアであるクリス・ロードアルジとWAVESの共同開発によるプラグインで、IK Multimedia「Black76」とは、また一味違った感じの音です。
まとめ
今回はダイナミクス系に分類される「コンプ」と「EQ」を使ったボーカルのエフェクト処理を解説しました。
次回は空間系に分類される「ディレイ」を使い、更にボーカルトラックを作り込んでいきます。