アナリーゼでみる「ノリの良い疾走感」と「細かなオシャレ」~『波乗りジョニー』を例に~

目次

『波乗りジョニー』から感じること

ポップスに限らず、様々な音楽の分析(アナリーゼ)に慣れるためには、実際の楽曲分析の例から学ぶことが重要です。楽曲分析の実践例に多く触れることで、アナリーゼにおける音楽に対する考え方がだんだんとわかってきます。

そこで前回は『空も飛べるはず』を題材にして、音楽が盛り上がるために楽曲の中でどのような工夫がされているのかアナリーゼしてみました。今回はサザンオールスターズの『波乗りジョニー』を題材にして、アナリーゼをする際にどのように音楽作品を扱い、そしてどのように音楽作品について考えるのか学びましょう。

『波乗りジョニー』は、冒頭のイントロから聴き手を真夏の太陽の下に連れて行くような、さわやかで疾走感のある楽曲です。特にサビはすごくテンションが高く、「ノリ」の良いメロディです。また、イントロのフレーズも特徴的ですね。この楽曲のポイントは次の3点でしょう。

・ノリの良さ
・効果的なクライマックスの作り方
・印象的なイントロ

以上の3点それぞれについて考えてみます。

楽曲の全体的な構造について

まずは音楽の構造についてまとめてみましょう。この楽曲は3番までの歌詞から成り立っています。

1番から3番までに間奏が2回挟まり、さらにメロディは次のように3つに分けることができそうです。

①“青い渚を走り”〜

②“君を守って”〜

③“だから好きだと言って”〜

『波乗りジョニー』(作詞:桑田佳祐)より

まとめてみますと『波乗りジョニー』は次のような構造になっていることがわかります。

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サビの「ノリ」の良さを考えてみる

ところで、カラオケの「JOYSOUND」のランキングによりますと、『波乗りジョニー』は桑田佳祐の楽曲の中で3番目に人気のある曲だそうです。(※2021年5月時点)

それほど人気のあるこの楽曲の魅力は、何よりもその「ノリ」の良さです。特にサビに当たるCフレーズで楽曲は一番盛り上がります。ここでなぜ盛り上がることができるのでしょうか。考えられることはフレーズの反復があるということです。

話は逸れますが、皆さんは「ミニマル・ミュージック」を聴いたことがありますか? ミニマル・ミュージックとはごく端的に言いますと、短いメロディのフレーズやハーモニーを何度も反復して作られた音楽のことです。特にアメリカの作曲家の中でこの手法は流行し、作曲家スティーブ・ライヒの『Music for 18 Musicians』という楽曲がとりわけ有名なミニマル・ミュージックです。そんなミニマル・ミュージックを聴くと、ある種の浮遊感や陶酔感、「ノリ」のようなものを感じます。短いメロディやハーモニーの繰り返しは音楽のノリをよくするものです。

さて、『波乗りジョニー』に話を戻しますと、この楽曲のCフレーズの“好きだと言って”“天使になって”“そして笑って”では次のように短いフレーズが繰り返されています。

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さらにこの箇所は1番から3番まで全て、歌詞で韻を踏んでいます。

1番の最初のCフレーズでは、

“好きだと言って ・ ・ ・
“天使になって ・ ・ ・
“そして笑って ・ ・ ・

『波乗りジョニー』(作詞:桑田佳祐)より ※傍点引用者

となっており、その次のCフレーズでは、

“君をさらって ・ ・ ・
“彼氏になって ・ ・ ・
“口づけ合って ・ ・ ・

『波乗りジョニー』(作詞:桑田佳祐)より ※傍点引用者

となっています。他の該当箇所を見てもわかるように、“黙って”“さらって”など、「○○って」という語が繰り返されていますね。このようなことを「韻を踏む」と言います。韻を踏むこともノリの良さを作るきっかけとなります。とはいっても、韻を踏むということは『波乗りジョニー』だけの特徴ではなく、他のアーティストの楽曲でもよくみられることです。

盛り上げとノリを作るための工夫とは?

『空も飛べるはず』を取り上げた際に、サビが盛り上がるためにはその前から音楽的な工夫がされていると述べました。『波乗りジョニー』にも同じようにサビの前の部分、Bフレーズにもノリの良さの秘密がありそうです。Bフレーズに注目してみましょう。

この楽曲は全体的にアップテンポの曲ですが、よく聴いてみますとBフレーズは少し落ち着いているような感じがします。これはBフレーズの伴奏の、特にベースの音が長い音符を中心にできているためだと考えられます。ここでBフレーズのベースに注目をしてよく聴いてみますと、譜例1のように長い音符を中心にできていることがわかります。

譜例1

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基本的に、アップテンポの楽曲では音の長さは短くなるものです。反対にローテンポの楽曲では音の長さは長くなります。このことから考えられることはつまり、Bフレーズのベースラインが長い音符であるため、全体の雰囲気が少し落ち着いたように聴こえるということです。

そして、何事にも盛り上がるためには「差」が必要です。前回述べましたように、メジャーコードがより効果的に聴こえるためにはマイナーコードを用いることが重要です。それは音楽に限らず、たとえば甘いものを食べる前に辛いものを食べるとそのお菓子がより甘く感じますし、いろいろなことを我慢して勉強に取り組んだ後に遊びに行くととても楽しく感じます。

つまり、アップテンポの部分がよりアップテンポに聴こえるためには、テンポ感が少し落ち着いた部分を作ることも大切です。『波乗りジョニー』ではBフレーズでテンポ感が少し落ち着くように作られているため、その後のCフレーズが盛り上がるように演出されているわけです。

「差」に注目してみますと、気になる箇所がもう1つあります。それは3番のBフレーズです。ここでは楽器の数が少なくなっているような印象を受けるのではないでしょうか。楽器はピアノと少しだけ打楽器が入っているのみ。実はこのようにすることでサビのクライマックスがより効果的になります。

基本的に音楽が盛り上がったりクライマックスを迎えたりするところでは、楽器の数は多くなるものです。たとえば、ベートーヴェンのとても有名な「第九」の一番のクライマックスもほとんどの楽器が演奏していますね。しかし、「第九」ではずっと全部の楽器が演奏しているわけではありません。バスのソロになったり、弦楽器だけになったりする部分もあります。

音楽は最初から最後まで全部の楽器で演奏していると、本当に盛り上がりたい部分、クライマックスの部分の効果が薄れてしまうものです。そのため、演奏する楽器を少なくする部分を作ることによって、クライマックスをより効果的に演出できるのです。

イントロから始まる音楽の世界

この楽曲のもう1つの特徴は、冒頭のイントロを聴いただけでこの音楽の世界に引き込まれるということです。よく聴いてみますとこのイントロは冒頭だけではなく、Cフレーズでも伴奏で重ねられていますね。

ところで、あるテレビ番組の中で出演者が述べていたことですが、近年の音楽にはイントロがない楽曲が多いそうです。個人的には必ずしもそうとは思えないのですが、確かに米津玄師の『Lemon』や藤井風の『きらり』、BTSの『Dynamite』など、楽曲の冒頭にイントロがなく、歌から始まる音楽は多いのかもしれません。

しかし、そもそもイントロの意味とは何でしょうか。様々な意味があるかと思いますが、そのうちの1つとして、現実の世界と音楽の世界を切り分ける機能がイントロにはあると考えられます。細かいことを述べますと何だか観念的な話になりそうなのでここでは簡略しますが、良いイントロというものは聴き手をその音楽の世界に引き込むものです。そして、それは音楽の世界に徐々に引き込むのではなく、突然引き込むというのが良いイントロの特徴の1つでしょう。たとえば、井上陽水の『少年時代』や斉藤由貴の『卒業』、瑛太の『香水』など、イントロの頭の音を聴いただけでその楽曲だとわかり、その世界観に引き込まれる音楽があります。『波乗りジョニー』のイントロにもそのような力があります。

それは『波乗りジョニー』のミュージックビデオを見るとより具体的に感じるのかもしれません。映像の中で、サラリーマンに扮した桑田佳祐がふと吹いてきた南の国からの風に引き込まれて、場面は突然・ ・、サラリーマンとしての現実から夏の海に変わります。そこでイントロが流れます。そしてこの楽曲が始まった瞬間、聴き手は桑田佳祐が扮するサラリーマンと同じように真夏の太陽の下に引き込まれるような感覚を覚えます。印象的なイントロにはこのような力があります。

楽譜からわかる『波乗りジョニー』のオシャレさ

ここまでで十分にアナリーゼができましたが、楽曲についてさらに詳しくみるために、楽譜も見てみましょう。注目ポイントはBフレーズのコード進行です。

譜例2(見やすくするためにC-durに転調しています)

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Bフレーズの前半にはマイナーコードが多く、この楽曲の主和音が現れません。『空も飛べるはず』と同じように、このことによって効果的に後のCフレーズが盛り上がっていることがわかります。

また、特に注目に値する箇所は途中に出てくるA♭メジャーのコードです。

譜例3

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この和音はC-durの同主調であるc-mollのVIの和音に当たります。和声法を学んだ人であれば、「準固有和音」と言った方がわかりやすいでしょうか。このように本来のC-durの和音ではなく、特殊な和音をさりげなく挟んでくるところがオシャレです。ついでながらコード進行でオシャレなポイントをもう一つ見てみましょう。次の譜例は後半のCフレーズのコード進行です。

譜例4

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最後のコードに注目してみましょう。ここは和声法的には次のような進行になるのが一般的です。

譜例5

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しかしここでは、G7ではなく、Dm7/Gが用いられています。つまり、和声法で言うところの「導音」が無いということでもあります。なぜそのようにしたのでしょうか?

G7→Cという進行は音楽が解決した感じを与えますが、ごく普通の一般的なコード進行であるため、あまり多用するとどこか野暮ったい印象を与えてしまうことがあります。しかし、そこをあえて一般的ではない崩した形に置き換えることで、普通ではないオシャレな感じがします。ちなみに、Dm7/G→Cという進行は桑田佳祐の他の楽曲(たとえば『tsunami』など)にも出てきます。もしかしたら本人が好きなコード進行なのかもしれませんね。

まとめ

今回は『波乗りジョニー』の楽曲のノリの良さ盛り上がり方イントロ、そしてオシャレなコード進行に注目してアナリーゼをしてみました。

この楽曲においてノリの良さは、メロディのフレーズの繰り返しや韻を踏んだ歌詞から現れていることがわかりました。そして、長い音符を用いることによってテンポ感を落ち着かせて、楽器の数を少なくすることによって、サビの部分を盛り上げる工夫になっていました。

また、この楽曲の世界観を作り出すのは、メロディやサビだけではなく、イントロも重要な役割を果たしています。その疾走感のある世界観は、実はコード進行に細かなコードのスパイスを入れることによって、オシャレさも作り出していましたね。

今回見てみましたように、①歌詞の韻の踏み方や②テンポ感の揺らぎ、③楽器数の増減に注目することはアナリーゼにおいて重要なテクニックです。また、従来のコード進行からずれた進行を見つけ出すために、和声法やコードについてある程度理解していることも重要ですね。

最後に唐突な話になりますが、ある落語の噺家さんは修行時代に師匠から落語のネタやテクニックについて直接教えてもらえなかったそうです。その代わりにその師匠の講談をひたすら聞かされたとか。しかし、そんなことを繰り返していくうちに次第とその噺家さんは落語ができるようになってきたそうです。

アナリーゼの手法の修得においても同じように、他人のアナリーゼの方法を聞いたり見たりすることはとても効果的です。そうすることによってアナリーゼをする際の音楽の接し方、考え方のようなものがだんだんとわかってきます。次回も別の楽曲を取り上げてアナリーゼの実践例を紹介したいと思います。

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