BUMP OF CHICKENの歌詞の物語

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米津玄師に影響を与えたバンド

個性の強いアーティストにもその奥底には別のアーティストから受けた影響があります。そして、それはその強い個性を作り出している要素の一つになります。何かから影響を受けるということは決して悪いことではなく、むしろ個性を作り上げるために必要なものなのです。

ポップスの音楽界の影響関係を見ると、それぞれの個性の源を見出すことができます。たとえば、桑田佳祐前川清の歌唱法から影響を受けていると言われますし、「シティ・ポップ」として取り上げられる大瀧詠一山下達郎もお互いに音楽上の影響を与えているように思えます。何かを表現する以上、その表現には何か別の表現からの影響があるものです。

比較的若い世代に影響を与えているバンドとしてBUMP OF CHICKENが挙げられます。BUMP OF CHICKENは米津玄師に影響を与えたバンドだと言われ、米津玄師本人も様々なインタビューの中でBUMP OF CHICKENからの影響を公言しています。

米津玄師以外にもRADWIMPS野田洋次郎もこのバンドから影響を受けたと言われますが、BUMP OF CHICKENの影響力は2000年代に思春期を過ごした比較的若い世代のみに及ぼしているわけではなさそうです。

たとえば、Mr.Children桜井和寿もその楽曲を大きく評価していますし、有名な音楽プロデューサーである亀田誠治も2000年代に活動的だったアーティストの一人としてBUMP OF CHICKENのボーカルである藤原基央の名前を挙げて、その楽曲を評価しています。

このように、BUMP OF CHICKENに高い評価を与えている人には1964年生まれの亀田誠治がいたり、1991年生まれの米津玄師がいたりと、その世代の幅の広さが目立ちます。ここまで幅広い世代、そして音楽性の異なる様々なアーティストたちに影響を与えているBUMP OF CHICKENの魅力とその秘密は何なのでしょうか?

今回はBUMP OF CHICKENの楽曲を、歌詞とそのメロディ、コード進行をアナリーゼしつつ、他のアーティストと比較してみましょう。

リズムの推進力によって生まれる歌詞の映像

多くの人が述べているように、BUMP OF CHICKENの魅力はその心にストレートに響く歌詞です。

ところで最初に述べておきますが、音楽がストレートに伝わるということは楽曲の価値判断の基準ではなくて、その楽曲の魅力として捉えるべきです。それは音楽がストレートに響くかどうかということが楽曲の良し悪しを決めるのではなく、それはあくまでその楽曲の魅力、美点の一つであるということです。

しかし、そもそも「心にストレートに響く歌詞」とはどのような歌詞なのでしょうか? 米津玄師はBUMP OF CHICKENの歌詞の魅力として、その歌詞から物語と映像を感じることだと述べています。たしかに、たとえば『天体観測』の歌詞を見ますと望遠鏡を担いで踏切まで駆けていく青年が思い浮かんできて、その青年の心情まで感じることができます。

歌詞に魅力のあるバンドであるBUMP OF CHICKENですが、その魅力をよりよく伝えるために実はメロディが重要な役割を果たしています。『天体観測』の冒頭のメロディに注目してみますと、次のようなリズムになっていることがわかります。

譜例1(メロディのリズムのみを取り出しています。以下の譜例4まで同様です。)

BUMP OF CHICKEN 天体観測 車輪の唄 ベースライン サカナクション コード進行 歌詞 楽曲分析 分析 ポップス アナリーゼ メロディー ハーモニー リズム 作曲 あいみょん 米津玄師 Official髭男dism YOASOBI 自分でできる 独学 簡単

八分音符と四分音符が組み合わさったリズムが特徴的ですが、仮にこのリズムを「八分音符→四分音符」ではなく、よりシンプルなリズムに変えてみるとどうでしょうか。

譜例2

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譜例1のリズムではメロディに推進力のようなものを感じられましたが、譜例2のようにすると推進力はなくなり、どこかもったりとした鈍重な印象を与えます。

続いて『車輪の唄』のメロディにも注目してみましょう。

譜例3

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「十六分音符→十六分音符→八分音符」というリズムが印象的で、このリズムによってメロディが流れるような感じがします。これも『天体観測』と同じようにリズムを変えてみると、やはり元のメロディにあったような推進力は無くなってしまいますし、そもそも歌いにくくなりました。

譜例4

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『天体観測』も『車輪の唄』もリズムを変えるだけでここまで印象が変わりますが、どちらももともとは短い音符から長い音符というリズムの組み合わせになっていました。『天体観測』では八分音符の後に四分音符(八分音符よりも長い音符)が付いて、『車輪の唄』では十六分音符の後に八分音符(十六分音符よりも長い音符)が付いていましたね。このように短い音符の後にその音符よりも長い音符が付くと、音楽に推進力のようなものが出てきます。

そして、まさにこの推進力のあるリズムが用いられていることが歌詞の世界観をより効果的に伝えるための工夫になっているのです。『天体観測』には午前2時に望遠鏡を担いで踏み切りに駆けていく「僕」が、『車輪の唄』には自転車を漕いで明け方の駅へと向かう「僕」が出てきますが、この駆け抜けていく「僕」のイメージがこのメロディのリズムの推進力によってより映像として想像しやすくなっています。

ベースラインの上昇とともに高まる感情

またBUMP OF CHICKENの多くの楽曲にはベースの音が一音ずつ上昇するコード進行が用いられています。たとえば『車輪の唄』ではサビの前からサビの最後にかけて現れるベースラインが特徴的です。そのコード進行は次のようになっています。

譜例5

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譜例を見ますとベースの音が一音ずつ上昇していることがわかります。これは楽曲にどのような効果をもたらしているのでしょうか?

そもそもコード進行は楽曲の雰囲気を大きく決定づけるものです。同じメロディでもメジャー・コードが付いているのか、もしくはマイナー・コードが付いているのかによってその楽曲の雰囲気が異なってきます。

譜例6(aもbも同じメロディですが、それぞれ違うコードが付いています)

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そしてコード進行の中でも支えとなるのはベースの音です。ベース音の進行はコードだけではなく楽曲全体に決定的な影響を及ぼします。無意識の中で楽曲の印象を決定づけるものがベース音だと言っても過言ではありません。

譜例5を実際に弾いてみますと、ベースの音が上昇することによって無意識的に高揚感のようなものを覚えるのではないでしょうか。この高揚感こそがベースラインが上昇することによって楽曲にもたらせる雰囲気です。

『車輪の唄』の歌詞の中で「君」を後ろに乗せて自転車を漕ぐ「僕」は線路沿いの上り坂を上りきったときに「あまりに綺麗」な朝焼けを目にします。そして、後ろにいる「君」を振り返って見ることができなかったのです。それは、感情が高まって「僕」は泣いていたからだと歌詞の中にあります。

このように『車輪の唄』のサビの短い歌詞の中で「僕」の感情は静かに高まり溢れ出てきます。ベースラインが上昇することによって歌詞の世界観がより聴き手に伝わり、「僕」の高まる感情を聴き手も共感することができるのです。

シンプルなBUMP OF CHICKENと複雑なサカナクション

ところでBUMP OF CHICKENのメンバーは幼なじみだそうです。ということは、彼らはみんな1979年生まれになりますが、BUMP OF CHICKENと同世代に当たる1980年前後に生まれたアーティストにはどのような人たちがいるのでしょうか? 例を挙げてみますと次のようになります。

椎名林檎(1978-)
MISIA(1978-)
中田ヤスタカ(1980-)
サカナクション 山口一郎(1980-)
宇多田ヒカル(1983-)

以上に名前の挙がったアーティストを見るだけでも、この世代のアーティストそれぞれが強い個性を持っていて、それぞれに特有のファン層がいるように感じます。今回は最後に、BUMP OF CHICKENと同じようにバンドとして活動しているサカナクション山口一郎を取り上げて、簡単に比較してみましょう。

山口一郎がインタビューの中で自分自身の音楽の理想について述べる際にたびたび用いる言葉として、「美しくて難しいもの」というものがあります。私が調べた限りでは山口一郎の言う「美しくて難しいもの」が具体的にどのような音楽を指すのか定かではありませんが、少なくとも彼の楽曲は「美しくて難しいもの」を志向して作られていると考えられます。

たしかに、サカナクションの楽曲には美しくて叙情的なメロディとどこかノスタルジーを感じさせるコード進行が見られ、魅力的な楽曲が多いのですが、歌詞やサウンド、アレンジについては理解することが比較的難しい部分があります。

たとえば、『アイデンティティ』の歌詞に注目してみましょう。そもそも「アイデンティティ」という言葉がどこか難解な雰囲気を持ちます。そして歌詞の内容もBUMP OF CHICKENに見られたような物語性というよりも、どこか哲学的な印象を受けます。

先ほども述べたように、メロディやコード進行は美しいものでありつつも、それ以外の部分には解釈の難しい箇所が多いです。たとえば、『アイデンティティ』では冒頭にリズム楽器による独特なイントロが出てきますし、『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』ではクラシック音楽風なピアノのフレーズが出てきます。このように従来のポップスには見られなかった個性的な音作りにも、サカナクションの難解さと実験性が表れています。

そんなサカナクションとBUMP OF CHICKENを比較してみますと、両者は共に上質で美しい楽曲を作っていながらも、その内容は次のように真逆であると考えられます。

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先に述べましたように、楽曲が直接的に人に伝わるかどうかが音楽の価値の基準ではなく、それはあくまでその楽曲の魅力の一つです。BUMP OF CHICKENの楽曲もサカナクションの楽曲も両方とも良い楽曲であり、それぞれにはそれぞれの美しさがあります。

しかしこのように比較することによって、BUMP OF CHICKENの楽曲に見られるストレートな歌詞と物語性、映像性に富んだ世界観に、このバンドの幅広いファンが魅力を感じているのだと推測できます。

まとめ

アナリーゼを通して、BUMP OF CHICKENの楽曲では歌詞の世界観をよりストレートに伝えるためにメロディのリズムとコード進行のベース音に次のような工夫がされていることが確認できました。

・メロディに推進力のあるリズムを用いること
・ベースラインが一音ずつ上昇すること

このような工夫によって歌詞の世界観をより具体的に作り出し、聴き手の共感を呼んでいます。

また、歌詞そのものの解釈になってしまいますが、歌詞に難しくないシンプルな言葉が用いられているということも、聴き手の心にストレートに響くための要因になっています。歌詞がシンプルな言葉で書かれているため、その分歌詞の世界観に余白のようなものが生まれます。そして余白があるからこそ、様々な世代の人々がそれぞれで自由に解釈する余地が生まれているのだと考えられます。だからこそ、BUMP OF CHICKENの楽曲は幅広い世代に受け入れられるのではないでしょうか。

さて、今回は歌詞に注目をした上でアナリーゼに取り組んでみました。歌詞の世界観が音楽によってどのように効果的に表現されているのか調べることもアナリーゼの一つの方法です。

今回は特にメロディのリズムとベースのラインに注目しました。ふと印象に残ったフレーズや歌詞からアナリーゼが始まることがあります。皆さんも気になる歌詞がありましたら、それをきっかけにアナリーゼに取り組んでみてください。

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