【はじめての楽典】第15章 調③ 転調と移調

これまでの【はじめての楽典】でご説明してきた「調」と、調を構成する音で作られる「音階」について、理解できましたか?

今回は、調の中での応用編、転調移調についてのお話しです。新たな言葉がいろいろ出てきますが、構造とともに頭に入れていきましょう。

近親調

「近親」とは、親子のように極めて近い親族関係、または大変親しい関係を表す言葉です。

音楽でいうところの近親は、2つの調のそれぞれの音階構成音に共通する音が多いということを表します。

その互いの調同士を近親調と呼びます。近親調には、以下に述べるいくつかの種類があります。

主調

一番基本となる調が「主調」です。ある楽曲の始まりの調と言っても良いでしょう。

たいていの曲は、途中で違う調に転調したとしても、最後は始まりの調で終わることが多いです。楽曲の主たる調ということです。

属調

主調の音階構成音の属音(第5音)を主音とする調が「属調」です。C durが主調なら、属調はG durとなります。

C dur

楽典 近親調 主調 属調 C dur

G dur

楽典 近親調 主調 属調 G dur

2つの調の音階を見ると、7つの音のうち6つの音が共通します。調号なしと♯1つという関係なので、当然と言えば当然ですね。

共通音が多いということは、主調から属調への転調が自然に行なわれやすいということになります。

次の「和音」の章で出てきますが、「三和音」が主調と属調は共通するものが多いということもあり、聴いていても転調に違和感がありません。

「ソナタ」「ソナチネ」という名前の曲を耳にしたことがあるかと思いますが、これらの名がついた曲はいわゆるソナタ形式で書かれていることが多く、必ず曲の途中で転調します。

その際に、主調から属調への転調というパターンがよくみられるのも、そのような理由からなのです。

ちなみに、主調が長調なら属調も長調主調が短調なら属調も短調になります。

下属調

主調の完全5度下の下属音を主音とする調を、「下属調」といいます。C durの下属調はF durです。

C dur

楽典 近親調 主調 下属調 C dur

F dur

楽典 近親調 主調 下属調 F dur

こちらも調号が♭1つつくだけなので、属調同様、音階に共通音が6つありますね。

やはり自然な感じで転調を行うことができます。ソナタ形式の転調にももちろん使われています。

下属調も長調⇒長調短調⇒短調であることは属調と同じです。

平行調

「平行調」は、長調⇒短調短調⇒長調となります。2つの調の関係は、同じ調号を持つというところにあります。♯2つの調で見てみると、

D dur

楽典 近親調 主調 平行調 D dur

h moll

楽典 近親調 主調 平行調 h moll

となります。

前回説明したように、♯と♭の調号はそれぞれ7つまであり、全ての調号はそれぞれに長調短調が存在します。

平行調の場合、音階構成音はもちろん全て共通であり、違うのは主音の位置です。

ある長調を主調とする平行調の短調の主音は、主調の短3度下の音です。短調が主調であれば、主音の短3度上の音が平行調となる長調の主音です。

実際の楽曲では、臨時記号をつけた旋律短音階和声短音階が用いられ、共通音はもう少し少なく感じるかもしれませんが、何より長調と短調とでは響きが違います。

そのため転調は行いやすいものの、属調や下属調のようにいつの間にか転調していた、というようには聴こえにくいかもしれません。

同主調

文字通り、主音を同じくする長調と短調の関係を「同主調」と呼びます。C durならc mollF durならf mollが同主調になります。

C dur

楽典 近親調 主調 同主調 C dur

c moll

楽典 近親調 主調 同主調 c moll

ご覧の通り、主音が同じの長調と短調は、実は調号的には近いといえません。共通音が4つしかないのです。

とはいえ、主音が同じであることはやはりそれなりに強い繋がりを感じさせる調であることは違いないので、近親調に含められるのです。

遠隔調

近親調以外の調を、主調からみて「遠隔調」と呼びます。

ただし、属調と下属調のそれぞれ平行調は、調号が同じということで主調と共通音が多いので、近親調として捉えられることも多いです。

遠隔調の例として、C durcis mollを見てみましょう。

C dur

楽典 遠隔調 C dur

cis moll

楽典 遠隔調 cis moll

共通音が3つのこの調は、C durの「属調の属調の属調の平行調」がcis mollという関係になります。いかにも遠隔調という感じですね。

転調しようと思ったら、かなりの手順が必要となりそうです。

移調

「移調」とは、ある楽曲を丸ごと違う調に移してしまうことです。たとえばドの音から始まる「きらきら星」の最初の4小節の全ての音を、

楽典 移調 きらきら星 C dur

短3度上に移調するとこうなります。

楽典 移調 きらきら星 Es dur

元の曲はC durですが、短3度上だとEs durになるので、調号もきちんとつけましょう。

楽典 移調 きらきら星 Es dur 調号

これで出来上がりです。

移調は歌曲でよく行なわれます。歌手の音域に合わせて曲を全体的に少し高く、或いは低く移調して演奏するのです。

歌曲集にはあらかじめ「高声用」「中声用」として2度ほどずらした楽譜が作られているものもあります。

もう一つ、移調楽器というものがあります。

吹奏楽ではお馴染みですが、管楽器はその楽器が一番きれいに響くように改良を重ねていく過程で、本来の「ド」の音がずれていったものがあります。

たとえば、譜面上のCの音を吹くとB管のクラリネットはBの音が、F管のホルンはFの音が鳴るようになっています。

C durのオーケストラの曲を書こうとしても、クラリネットのパートはB durで、ホルンのパートはF durで書かねばなりません。ここで移調が必要となってくるのです。

もっとも、近年は記譜ソフトを使えば簡単に移調することができるので、書くといった点ではかなり楽になっていますね。

まとめ

調と一言でいっても、ただ調号を覚えるだけでなく、各調の関係を身につけなければ、自然な曲作りは行えないというのがお分かりになったでしょうか。

次回は和音の章に入ります。コードネームとしてご存知の方もいるでしょうが、その仕組みをしっかり覚えていきましょう。