【はじめての楽典】第19章 調判定② 法則と例外「刺繍音」「複刺繍音」

【はじめての楽典】第18章から、最終章である「調判定」に入りました。

調判定は、理屈だけでなく、実際にやってみて慣れていくのが一番です。新たな法則や例外とともに、どんどん譜例を見ていきましょう。

調判定の原則

前回の続きです。音階固有でない音は、その後に跳躍進行すると調が不安定に聴こえてしまうので、順次進行するというのが原則です。


<譜例1>

楽典 入門 調判定 音階固有音 跳躍進行 順次進行 サン=サーンス サムソンとデリラ フラット F dur

サン=サーンスのオペラ「サムソンとデリラ」の有名な一節を単純化したものです。こちらは何調になるでしょうか。順を追って見てみましょう。


♭系の曲である。

②シに♭がつき、かつ跳躍進行している。ミ、ラにはついていないがレに♭。

③レ♭は次に短2度下行しているので、音階固有音であるレに臨時記号をつけた可能性大(ファ♯も次に短2度上行しているので同様)。

④調号は♭1つ。もしd mollならドが導音で♯になるが、ついていない。


以上より、この旋律はF durである、という順で考えていきます。譜例1は既成の楽曲ですが、いろいろ重要なポイントがあります。


(1)順次進行に「長2度」は含まれない

順次進行は、あくまで「短2度」でなければなりません。1小節目のミの音は次に「長2度」下行しているので、音階固有音となるのです。

(2)主音、属音、下属音は増1度下げない

「2小節目のシの音は、次に半音下がってシ♭になっている。

シ♭が音階固有音なら、最初のシは臨時に半音上がっているといえるから、次は短2度上行してドにいくのでは?」と疑問に思った方は、ここまでの原則をよく理解されています。

「音階」や「調」の章で主音、属音、下属音はとても重要な音だと説明しました。

そこで、これらの音が臨時記号により増1度下がると、調の構造が揺らいでしまうため動かさず、音階の一つ下の音を使用することになっているのです。

ただし、主音と下属音は、1つ下の音と短2度関係にあるのでスムーズに進行できますが、属音と下属音は長2度離れているので、属音を優先させ、下属音を半音上げることになるので注意して下さい。

もっとも、譜例のような半音階的に旋律の下行が続く場合に注意すれば大丈夫です。

ちなみに、これらの音を臨時記号で増1度上げることは問題ありません。

(3)強拍にある長めの音は音階固有音の可能性が「高い」

旋律を印象付ける「強拍にある長い」音符の音は、音階固有音を使うからこそ調として安定するといえます。

譜例の二分音符の音がそうですね。特に、2小節目のドの音は、この旋律がd mollでないことを強く伺わせます。

ただし、あくまでも可能性が「高い」のであり、どうしても他の部分で判定ができない場合の奥の手として使用して下さい。

調判定の実践

とにかくいろいろな譜例に触れて、調判定に慣れましょう。各譜例で注意ポイントだけを示し、解答はまとめて下に列記します。


①ミの音がポイントです。3小節目と4小節目をどう判断したら良いでしょう。

楽典 入門 調判定 旋律短音階 fis moll

②ミに♭がつかないのにラについている理由は?

楽典 入門 調判定 導音 f moll

③一見、半音階の下行が多いようですが、よくチェックして下さい。

楽典 入門 調判定 音階固有音 E dur

④最初は♯系にみえますが、後半はどうでしょう?

楽典 入門 調判定 旋律短音階 g moll

正解は、①fis moll、②f moll、③E dur、④g mollです。


①3小節目は旋律短音階の下行形です。

②ミは導音ですね。調号があればミに♮がつきます。

③3小節目のレ♯は次に長2度下行しているので音階固有音です。

④1小節目は旋律短音階上行形、4小節目は下行形が使われています。

音階固有音でないのに跳躍進行することがある① 刺繍音と複刺繍音

調判定の原則についてお伝えしましたが、原則には必ず例外があります。旋律の場合は、むしろ例外がなければ面白みがないのが、調判定的には難しいところです。

たまたま臨時に半音高く(低く)なっている音が順次進行しない場合がその「例外」なのですが、まずは下の譜例をご覧ください。


<譜例2>

楽典 入門 調判定 刺繍音 複刺繍音 非和声音 跳躍進行 C dur

旋律の中で出てくる音階固有音(導音を含む)以外の音を「非和声音」といいます。

既に説明している「臨時に半音高く(低く)」なっている音も非和声音なのですが、これらの音には、実はそれぞれ役割に応じて名前がついています。


※注:正確には、伴奏部の和声で使われていない旋律部分の音を「非和声音」というのですが、この章では便宜上、音階固有音以外の音に限定しています。


譜例2で「刺」と書いているのは「刺繍(ししゅう)音」という非和声音の種類です。

ちょうど針が布地を少し掬って糸を通すように、2つの音階固有音の間に臨時に半音高く(低く)された音が入っている形を取っているので、「刺繍」と名付けられたのです。

さて、この旋律はC durなのですが、3小節目、音階固有音ではないファ♯が次に短3度の跳躍進行をしていますね。これが例外の一つ目、「複刺繍音」なのです。

要は、刺繍を複数回繰り返して音階固有音に到達するということです。

譜例2でいえば、2つのソの間に2回刺繍音が入っていることになります。

原則はファ♯とラの間にもソを入れるべきなのですが、より動きがあり、響きも良いということから略してしまったのです。音楽なのですから遊びは大切ですね。

しかし調判定においては、複刺繍音は厄介な問題です。こういう時は、他の音を確認してください。

譜例では、4小節目のファが跳躍進行しています。一方、3小節目のファ♯は一瞬、跳躍進行しているものの、すぐにソに進行しているため、おそらく複刺繍音であり、臨時の音であると推定できるのです。

調判定の例外は、次回へ続きます。