連載【ミックス&マスタリング入門】第4回目では、ミックスの重要な下準備である、MIDIデータとソフトウェア音源をオーディオファイルへ変換する作業の流れやメリットについてご説明しました。
その内容を踏まえた上で、今回は「CUBASE Pro」でのMIDIトラックとVSTインストゥルメントトラックのオーディオファイルへの変換について解説します。
CUBASE Proでのオーディオ化
STEP1 ミュート&ロケーターで範囲を指定
「CUBASE」でMIDIトラックとソフトウェア音源をオーディオ化するとき、「内部バスを経由する録音する方法」もありますが、「バウンス機能」を使用する方法の手順をご紹介します。
まず、オーディオ化するMIDIトラックとVSTインストゥルメントトラック(ソフトウェア音源)以外はすべてミュート状態にして、オーディオ化したい範囲を画像のようにロケーターで指定します。
ロケーターの範囲指定はトランスポートパネルだけでなく、小節バーでもすることができます。
今回はトランスポートパネルで3小節目から66小節目までを範囲指定し、ロケーターで指定された範囲の色が変わるのが確認できるかと思います。
STEP2 オーディオミックスダウン
不要なトラックのミュートと、ロケーターで範囲を指定した後は、ファイルメニューの「書き出し」から「オーディオミックスダウン」を選択します。
「ファイルの場所」「ファイル形式」「オーディオエンジン出力」「プロジェクトに読み込む」などを設定した後に「書き出し」をクリックすると自動的にオーディオ化されます。
「プロジェクトに読み込む」にチェックを入れておけば、新たなオーディオトラックに、自動的に書き出したオーディオが追加されます。
STEP3 MIDIトラックとインストゥルメントトラックを「無効」にする
オーディオファイル化が終了したら、PCへの負担を軽くするために、書き出したMIDIトラックとVSTインストゥルメントトラックは「無効」にしましょう。
使用していたVSTインストゥルメントを無効にすると、CPU使用率が下がったことを確認することができます。
なお、フレーズの変更などの可能性もありますので、VSTインストゥルメントは「削除」するのではなく「無効」のほうが良いです。
これらの作業を繰り返して、すべてのMIDIトラックとVSTインストゥルメントトラックをオーディオ化していきます。
パラアウトでの書き出し
マルチチャンネルで一度に書き出す
トラックをひとつずつ選択して書き出しをする作業は、思ったよりも時間が掛かり面倒な作業です。
そんなときに便利なのが「パラアウト」と呼ばれる、複数のトラックを一度に書き出すことのできる「マルチチャンネルでの書き出し」です。
書き出したいトラックを複数選択して「書き出し」をクリックすれば、一度に変換してくれます。
注意点として最上位版の「CUBASE Pro」は「マルチチャンネル書き出し」に対応していますが、「CUBASE Artist」「CUBASE Elements」「CUBASE AI」の下位エディションは対応していませんので、ひとつずつトラックを書き出さなくてはなりません。
ドラムセットもわけてオーディオファイル化
ドラムセットは、ミックス時のバランス調整や音作りのために、キック、スネア、ハイハット、タム、シンバルなど各パーツをわけてオーディオファイル化するのが一般的です。
ループ集などをドラムトラックに使用している場合は、そのようなことはできませんが、打ち込みでドラムトラックを制作している場合は、各パーツをわけてオーディオファイル化しましょう。
オーディオファイルへの変換のポイント
モノラルファイルとステレオファイル
モノラルファイルとステレオファイルのどちらで書き出すのかを迷う方もいると思いますが、この点に関しては明確な決まりというのはありません。
一昔前だと、ドラムセットは実際のレコーディングと同じように、すべてモノラルで書き出していました。
しかし、最近のドラムのソフトウェア音源は、空気感やステレオ感なども再現されていますので、ケースバイケースですが、ステレオファイルで書き出しても問題はありません。
シンセ系のソフトウェア音源は、モノラルにしてしまうと台無しになってしまう音色もありますので、これは各自の耳でモノラルにするのか、ステレオにするのかを判断しましょう。
今回のミックスで使用した曲は、以下のようにモノラルファイルとステレオファイルに書き出し、もしくはレコーディングしています。
ボーカル、コーラス、キック、スネアドラム、シンバル、ベース、エレキギター、アコースティックギター
ハイハット、タム、ピアノ、シンセ、SE
クリップしないように注意する
注意点として、書き出しの際に知らないうちに 0.0 dBを越えて、サウンドが歪んでしまうことがあります。
特に、高出力のソフトウェア音源のステレオサウンドをモノラルファイルに変換して書き出すときに多いのですが、変換時にオーディオファイルをクリップさせてはいけません。
安全策として、マスターアウト(CUBASEではStereo Out)にリミッターを立ち上げて、出力レベルを 0.0dBを越えないように調節しておくと間違いがありません。
CUBASE Elements 以上のエディションに標準搭載している「Brickwall Limiter」で解説すると、INPUT「0.0dB」、OUTPUT「-0.1dB」、Threshold 「0.0dB」、RELESE「AUTO」にしておけば、オーディオファイルが 0.0dB を越えてクリップすることはありません。
使用するリミッターは「Brickwall Limiter」でなくても良いですが、初心者の方は音の変化が少ないプラグインがおすすめです。
補足として、プロのミックスエンジニアの方の中には、ミックスの準備として、書き出し(読み込み)の段階で、全トラックにアナログ系のコンプ/リミッターを必ず通す、といったようなこだわりを持っている方もいます。
まとめ
前回と今回で、曲を構成するボーカルや楽器のオーディオファイルへの変換がすべて終了しました。
次回はミックス前の下準備として、トラックの整理について解説します。