連載【ミックス&マスタリング入門】第3回目では、作曲、レコーディング後のDAWソフトでの「ミックスからマスタリングへの流れ」と「マスターファイルのフォーマット」についてご説明しました。
第4回では、ミックスの重要な下準備である、MIDIデータとソフトウェア音源をオーディオファイルへ変換する作業の流れやメリットについて解説します。
オーディオファイルへの変換
パソコンへの負荷を考えて変換する
今回のミックス・プロジェクトは、既にすべてのトラックがMIDIデータかオーディオファイルになっている状態です。
MIDIデータで使用しているソフトウェア音源(CUBASEではVSTインストゥルメント)は下記の通りです。
ドラム音源 Groove Agent(Steinberg)
ベース音源 MODO BASS(IK Multimedia)
エレキギター音源 Real Strat 5(MUSIC LAB)
アコースティックギター音源 Sunbird(Acoustic Samples)
ピアノ音源 EZKeys(Toontrack)
シンセ音源 SampleTank(IK Multimedia)
これらすべてのインストゥルメント・トラックの音を、オーディオファイルに変換します。
今回使用している音源の中でも、特にギター音源のMUSIC LAB「Real Strat 5」や、画像のAcoustic Samples「Sunbird」はパソコンに負担の掛かる音源で、立ち上げ時のサンプルの読み込みにも時間が掛かります(Real Strat 5 はギター音源のなかでは、比較的軽い方です)。
そのため、ミックス時はオーディオファイルに変換しておかなくては、作業に支障をきたします。
オーディオのファイルにする理由
オーディオファイルにする大きな理由は、ひとつのソフトウェア音源よりも、ひとつのオーディオトラックの方が、PCへの負担が圧倒的に少ないからです。
オーディオ化しないまま重たいソフト音源を複数使用していると、CPUやメモリを圧迫して、ミックス作業どころではなくなってしまいます。
ミックスでは、ほぼすべてのトラックにプラグインエフェクターを使用しますが、プラグインのなかには、高機能なものほど、かなり重たいものがあり、マシンのスペックにもよりますがPCに負荷が掛かります。
PCに大きな負荷が掛かると、動作がぎこちなくなるだけではなく、最悪の場合はミックス中に再生ができなくなってしまいます。
これらの理由からインストゥルメント・トラックは、すべてオーディオファイルにしておきます。
オーディオファイルのフォーマットの統一
別のDAWを使用することも考える
オーディオファイルにすることのメリットは、ミックスの際にパソコンの負担を軽減させることだけではなく、ミックス以降の作業で別のDAWを使用する場合もスムーズです。
今回は「CUBASE Pro」での作業ですが、ミックス以降の作業は「Studio One」であったり「Pro Tools」のほうがやりやすい人も少なくはありません。
WAVファイルのオーディオファイルのフォーマットを統一して書き出しておけば、「Studio One」や「Pro Tools」に各トラックのファイルを読み込むことができ、すぐにミックス作業に移ることができます。
将来のリミックス作業に備える
今後も「CUBASE Pro」でミックスするという方もいるかもしれませんが、他のDAWを使ってみたり、新たな便利なソフトが誕生すれば、乗り換える可能性はゼロではありません。
将来、一度ミックスを完結させた「CUBASE Pro プロジェクト」のリミックス作業が、乗り換えたDAWで必要な場合も当然出てきます。
また、規模の大きい仕事の場合は、ミックスエンジニアにミックス以降は任せるということがほとんどです。
その際は「CUBASEのプロジェクトファイル」ではなく、各パートがオーディオファイルで書き出された状態の「マルチトラック」を送ることになりますので、互換性のことも考えて、オーディオファイルにしておくことがおすすめです。
オーディオファイルへ変換する2つの方法
各パートをオーディオファイルへ変換する方法は「内部バスを設定して新たなトラックに録音する方法」と「一部の音やトラックだけを新たなトラックにバウンスする方法」があります。
内部バスを設定して新たなトラックに録音
ひとつ目の「内部バスを設定して新たなトラックに録音する方法」は、MIDIで使用しているソフトウェア音源のアウトプットをバス(BUSS)に指定し、新たなオーディオトラックを追加した後、そのオーディオトラックのインプットをBUSSに設定します。
この状態にして、追加したオーディオトラックの録音をスタートさせると、目的の音だけがオーディオファイルとして録音されます。
音声信号の流れは「MIDI → BUSS →オーディオトラック」となります。
例えば「CUBASE Pro」の場合で、上画像のようなSoftSynth MIDIの音をSoftSynth AUDIOトラックに録音したい場合は、グループチャンネル(BUSS)を立ち上げて、ソフトウェア音源(SoftSynth MIDI)をグループチャンネルに経由させます。
そして、オーディオトラック(SoftSynth AUDIO)のインプットをBUSSに変更して録音をスタートさせると、下の画像のように目的の音だけがオーディオファイルとして録音されます。
この方法のデメリットは、入出力の設定が初心者の方には多少複雑で面倒なところと、オーディオファイルにするのに実時間が掛かるところです。
バウンス機能を利用してオーディオファイルの生成
ふたつ目として、バウンス機能を利用してオーディオファイルを生成する方法があります。
バウンス機能(CUBASEではオーディオミックスダウン機能)は、オーディオファイル化したいパートや範囲の書き出しをすることもできる機能で、パソコンが自動的に処理をして、オーディオファイル化してくれます。
バスを設定してオーディオファイルにする方法は時間が掛かるため、DAWでは「バウンス機能」を使用してオーディオファイルを生成する人が多いです。
まとめ
重いソフトウェア音源をオーディオファイルへ変換しないで、そのままの状態にしておくと、ミックス作業に支障をきたします。必ずオーディオファイルへと変換しておきましょう。
次回は、今回解説したことを踏まえた上で「CUBASEでのオーディオファイル化」についてご紹介します。