連載【ミックス&マスタリング入門】第10回目では、本ミックスでのエフェクトの掛け方と、ボーカルのミックスでは必需品であるディレイについて解説しました。

今回は、ボーカルと同様にセンターに位置するキックとベースのミックスについて解説します。
低音域のキックとベースのミックスは、楽曲の土台を作る重要な作業であり、ミックスで最も処理が難しいパートでもあります。
キックのエフェクト処理
最終的に埋もれないことを目標にする
キック(バスドラム)は曲の土台となります。
最近の楽曲は音数が多いこともあり、意識してキックの音を作らないと、音が積み重なっていくうちに、確実に他の音に埋もれてしまいます。
埋もれてしまったからといって、ミックスの最終段階で、ゼロからキックを作り直すのは困難な作業です。
少し厳しい言い方をすると、微調整以外で後になってからキックに手を付けなくてはいけない状況というのは、「そのミックスが失敗である」ということを意味します。
このことを意識して、最終的に埋もれないことを目標に、アタック感を少し強調する感じで、キックの音を作っていきましょう。
チャンネルストリップでキックの音を作る
まずは、ボーカルにも使ったIK Multimediaのチャンネルストリップ「British Channel」を、MIX Consoleのキック(KICK)のチャンネルにインサートします。

チャンネルストリップのEQとコンプでキックの音を作ります。
まずEQは、Low +2.5dB、Low Mid -3.5dB、Hi Mid +2.0dB、Hi +2.0dBで設定しました。
キックのアタック感を強調するために、基本的にはLowもHiもブーストしましたが、Low Midは音をスッキリさせるために500Hzを -3.5dBカットしました。
コンプはRatio 20:1 にして、ゲインリダクション -1dB~ -3dBにスレッショルドを調整しています。
「British Channel」をバイパスにして元音を聴いてみると、EQ&コンプ処理で、アタック感が強調されているのが確認することができます。
キックでポイントとなる周波数
キックも様々な種類がありますので、ミックス時の周波数のポイントは違ってきますが、Lowは60Hz~100Hz、HIは3.5kHz~6kHzが重要です。
低音の要は60Hz~100Hzで作り、高音のアタック感は3.5kHz~6kHzで調整していきます。
ベースのエフェクト処理
ベースはキックとのバランスが重要
ベースにもエレキベース、アコースティックベース、シンセベースなど、いくつもの種類がありますので、当然、ミックスでのエフェクト処理も種類によって違ってきます。
今回はエレキベースで解説しますが、どの種類のベースにしても、キックとのバランスが重要になります。
ベース用のアンプシミュレーター
キックを最終的に埋もれさせないように、アタック感を強調するように作っているため、キックの音を作った後にベースを合わせて聴くと、しっくりと来ない場合があります。
その場合は、コンプとEQ処理の前にアナログシミュレーターや、ベース用のアンプシミュレーターをインサートして、少し歪みを加えてベースの基礎となる音を作ります。

「CUBASE」には、「VST Bass Amp」というストンプボックス・エフェクトも組み合わせて使用することのできる、ベース用のアンプシミュレーターがあります。
今回はこれを使用して、少し歪みを加えました。
「VST Bass Amp」にはベース用のプリセットがたくさん用意されていますので、プリセットを基準にキックとフィットするサウンドを作りましょう。
ベースにもチャンネルストリップをインサート
次に、ベースにもチャンネルストリップ「British Channel」を、MIX Consoleのベース(BASS)のチャンネルの「VST Bass Amp」の下にインサートします。
キックと同様に、ベースもEQとコンプで音を作りますが、EQは、Low Mid 200Hzのみを+4.1dBブーストしました。
ベースは低音楽器ですので、ミックス時に100Hz前後に注目する人が多いですが、音作りのときは200Hz前後の処理も非常に重要となります。
コンプは音の粒を揃えるのを目的に、Ratio 6:1、リリースは最速の0.1にして、ゲインリダクション -1dB~ -3dBを目処にスレッショルドを調整しています。
マスキングについて
マスキングの代表的な例
ミックス内のパート同士で被っている周波数帯域をマスキングと言い、何も処理をせずにそのままにしておくと、音にモヤモヤ感があり、抜けが悪いミックスの飽和状態の原因となります。
今回解説した低域の周波数帯を多く占めるキックとベースは、マスキングの最も代表的な例ですが、DAW初心者がキックとベースの被っている周波数帯域を見つけ出すのは、かなり難しい作業です。
そこで、視覚的に帯域の被りを見ることができ、マスキング処理のサポートをしてくれる、DAWならではの便利なツールを積極的に使用しましょう。
視覚的にマスキングを確認できるツール
代表的なマスキングを確認することができるプラグインとして、今年最新バージョン「3」がリリースされた、人気のiZotope「Neutron」のEQにマスキング機能があります。
また、世界的な定番EQとなったFabFilter「Pro-Q」も昨年の最新バージョン「3」で、マスキング検知機能が搭載されています。

今回の楽曲ではFabFilter「Pro-Q3」を使用し、次回記事で各パートのマスキングを解消していきます。
まとめ
ここまででボーカル、キック、ベースの音作りは終了しました。
次回は各パートを聴きやすくするために、被っている周波数帯域をチェックして、EQ処理していきます。
キックとベースだけではなく、すでにコンプ、EQ、ディレイでエフェクト処理をしてあるボーカルトラックも加えた作業を解説します。
