連載【ミックス&マスタリング入門】第13回目は、スネアドラムとハイハットのミックスと、ボーカルのリバーブについて解説しました。

今回は、最後のドラムパーツとなるタムのミックスと、ドラムセットにトータルに掛けるコンプなどについて解説します。
タムのミックス
タムの音作り
今回、タムはまとめてステレオで書き出しましたが、実際の生のドラムレコーディングだと「ハイタム」「ミッドタム」「ロータム」「フロアタム」に分けてレコーディングされ、ミックス作業が行われます。
早速、タムのチャンネルにもIK Multimediaの「British Channel」をインサートします。
タムは一体感を重視して音を作ります。
今回の曲で使用したタムのEQは、Low +3.2dB、Low Mid -3.9dB、Hi Mid +4.0dB、Hi +2.5dBで設定しました。Low Midを削り、音をスッキリさせました。
コンプはRatio 4:1 、アタックタイム、リリースタイムは早めにして、ゲインリダクション -2dB ~ -3dBにスレッショルドを調整して、コンプで一体感を出しています。
タムのEQ処理
タムは、「フロアタム」が低音楽器に周波数帯に被ってきますので、FabFilter「Pro-Q3」で130Hz付近をカットしました。
また、タムでは曲の中で意味のない58Hz以下を「Pro-Q3」のハイパスフィルターを使用してカットしています。
タムの広がりの調整
今回はステレオで書き出していますので、タムの広がりの調整をしたい場合は、第10回で紹介したWAVES「S1 Stereo Imager」のようなステレオ・イメージャー系プラグインで調整します。

ドラム、ベース、ボーカルの音を仕上げていく
ドラム全体にバス・コンプレッサー
タムで全パーツのエフェクト処理が一通り終わりましたが、ドラムの一体感を強めてパンチ出すために、IK Multimedia「Bus Compressor」をグループチャンネルのDrum Busにインサートしました。

世界の大定番である1980年代の「SSL G シリーズ」をモデリングした「Bus Compressor」は、バストラックに使用し、バスに送られたそれぞれのトラックのサウンドを接着することができます。
なお、第6回「ミックス前のトラックの整理」で書いたように、ベースはフォルダーに入れていないので、「DRUMS Bus」に音声信号を送っていません。
ドラムとベースをまとめ、「BASS + DRUMS」のバスを作り、コンプレッサーを使うという方法もあります。
ボリューム調整とハイパスフィルターで低音域をカット
すでにハイハットとタムは、ハイパスフィルターを使って低音域をカットしました。
ベース、キック、スネアドラム、ボーカルもボリュームを微調整しながらハイパスフィルターを使用して、音を濁らせる原因となる低音域をカットします。
スッキリさせるために、ベースは30Hz以下、キックは20Hz以下、スネアドラムは98Hz以下、メインボーカルは99Hz以下を「Pro-Q3」のハイパスフィルターでカットしました。

マスキング処理と同様に、ハイパスフィルターはミックスのこもりや飽和状態を解消するのに非常に有効です。
ただし、EQの中には、ハイパスフィルターの効きがいまひとつのプラグインもあります。
その点、今回メインのEQとして使用している「Pro-Q3」はハイパスフィルターの効きが非常に良く、世界定番となった理由がわかるクオリティーの高さです。
ボーカルのダブルトラックのエフェクト処理
ここで、ボーカルはダブル処理したトラックも加えていきます。あくまでも厚みを出すためのユニゾントラックですので、メインボーカルを邪魔をしないように設定にします。
メインボーカルよりも「British Channel」のコンプの設定は少し深めにして、「Pro-Q3」ではパスフィルターで230Hz以下をカットし、3kHz~4kHzの中域をEQで -3dBほどカットしています。
ボリュームも、サビでメインボーカルに厚みを出すことを念頭において設定しました。
DAWマストアイテム SSL4000をモデリングしたプラグイン
世界中で使われてきたミキシング・コンソール
Solid State Logicの「SSL4000」は 世界中で使われてきたミキシング・コンソールで、数々の名盤のミックスにも使用されています。
ボーカルやドラムだけでなく、ギター、ベース、ピアノなど幅広い用途で使うことができ、DAWで標準で付属するプラグインとは音の質が違います。
DAW初心者の方が、よくわからずに様々なエフェクターのルーティングを考えるよりも、「SSL4000」をモデリングしたプラグインの使い方を覚えた方が上達の近道となります。
現在も、「SSL4000」はミックス時のサウンドの基準となっていて、音もワンランク上のものになります。
エフェクターの買い増しを考えるときは、真っ先に候補に入れましょう。
WAVES「SSL 4000 Collection」
Solid State Logicのライセンスを受けている人気のWAVESのバンドル製品「SSL 4000 Collection」には、「SSL E-Channel」「SSL G-Master buss Compressor」「SSL G-Equalizer」「SSL G-Channel」が収録されています。
グラミー賞を受賞したこともあるクリス・ロード・アルジなど、世界的なミキシングエンジニアのプリセットも、WAVES「SSL 4000 Collection」に収録されています。
IK Multimedia「British Channel」
ここまでの、ドラム、ベース、ボーカルのミックスの主役として活躍してきた IK Multimedia「British Channel」は、Solid State Logicとのライセンスの問題だと思いますが、正式には公表されていないものの「SSL4000」のチャンネルストリップ部分がモデルになっていると思われます。

WAVESよりも明るめのサウンドですが、価格も高くなく、非常に出来の良いプラグインです。
まとめ
ドラムのミックスの主な解説は今回で終了となりますが、今後もボリュームやリバーブ量などの微調整は行います。
次回は、ボーカルとのバランス調整が重要な、コード楽器であるエレキギターのミックスを行います。バックギターとソロギターの両方のサウンドメイク&ミックスを解説します。
DAWマストアイテムとして紹介したIK Multimedia「British Channel」は、エレキギターのミックスでも使用します。
