連載【ミックス&マスタリング入門】第15回目では、コード楽器であるエレキギターのミックスと、PCに掛かる負荷を軽減するフリーズ機能にについて解説しました。
ミックスの解説最終章となる今回は、アコースティックギター&アコースティックピアノのミックスと、マスターチャンネルにインサートして曲全体を整えるトータルコンプについて解説します。
アコースティックピアノのエフェクト処理
イメージャー系プラグインで広がり感を調整
今までのパートでは、初めにチャンネルストリップを使用しましたが、ステレオで書き出したアコースティックピアノ(PIANO LR)は、まずは音の広がりを調整します。
ステレオファイルの音の広がりは「WAVES S1」などのステレオ・イメージャー系プラグインを使用して調整します。
ピアノがセンター寄りでボーカルの邪魔をしている場合はイメージャーで音を広げ、逆に広がりすぎている場合は音を狭める設定にします。
今回の楽曲のピアノの音の広がりの調整では「WAVES S1」ではなく、IK Multimedia「Quad Image」を使用して、ボーカルだけでなくアコースティックギターとの定位のバランスを考えて音を広げました。
「WAVES S1」はシングルバンドのイメージャーですが、「Quad Image」は4つ周波数帯域に分けてステレオ感を調整することのできるマルチバンド・イメージャーです。
ピアノは低域~高域まで鳴っている楽器ですので、より細かくステレオ感を調整したい場合があります。そんな時に低域、中域、高域にわけて調整することのできるマルチバンド・イメージャーを使用することにより、シングルバンドのイメージャーよりも精度の高い調整ができます。
ピアノのコンプ&EQ処理
音の広がりの調整が終わったら、「British Channel」と「FabFilter Pro-Q3」をインサートしてボーカル、ベース、キックやエレキギターとのバランスを考えながらピアノのミックスします。
ピアノにはダイナミクス感を残しながらも、少し強めにコンプを掛けたかったので、「British Channel」のコンプ設定では、FastAttをオンにしてアタックタイムを速くして、ゲインリダクションが −6dBになるようにスレッショルドを設定しています。
EQ処理では、ボーカルとのマスキング処理をした後に、さらにハイパスフィルターで90Hz以下をカットしました。
アコースティックギターのエフェクト処理
アコギのコンプ&EQ処理
アコースティックギターも「British Channel」と「FabFilter Pro-Q3」をインサートして、他のパートとのバランスを考えながらミックスしていきます。
「Pro-Q3」では、ボーカルを聴こえにくくしている帯域をカットするだけでなく、ハイパスフィルターで80Hz以下の不要な低域をカットしました。
ディレイで広がりを出す
アコースティックギターで音の広がりを出したり、奥行きを出したりといった空間を表現する最善の方法は、同じフレーズでも2本のアコースティックギターを使用することです。
それはソフトウェア音源を使用したMIDIでのギターの場合でも同じですが、今回は1本のアコースティックギター(AGT)しか使用していません。
そこで、エレキギターで解説したのと同様に、FXチャンネルにディレイを立ち上げて、センド/リターンで、アコースティックギターを2本で弾いているように聴こえるエフェクト処理をしました。
トータルコンプで曲全体を整える
マスターチャンネルにコンプレッサーをインサート
ある程度ミックス作業が進んだ段階で、曲全体のバランスと音圧・音量感を整えることを目的に、ミックスのマスターチャンネルにコンプレッサーをインサートします。
今回の曲では、Drum BusにインサートしたIK Multimedia「Bus Compressor」をマスターチャンネルにインサートしました。これはトータルコンプと呼ばれます。
トータルコンプにはシングルバンドタイプのコンプではなく、マルチバンドコンプレッサーを使用しても問題はありません。しかし、マルチバンドタイプのコンプは初心者には設定が少し難しいので、ミックスに慣れるまではシングルバンドタイプのコンプを使用した方が良いでしょう。
トータルコンプでは控えめな設定にする
トータルコンプにはさまざまな考えがあり、ミックスとマスタリングをひとりで行う人は、この段階で、ある程度のしっかりと音圧を稼ぐために使用する人もいます。この方法が悪いというわけではありませんが、音圧・音量感はマスタリング作業で調整した方が良い結果を生みます。
ミックスの段階で音圧を出しすぎてしまうと、マスタリング作業でいくら努力しても、自然な感じでの音圧・音量感を出すことは難しくなります。
そのような理由から、Drum Busではドラムの一体感を強めてパンチ出すことを目的に「Bus Compressor」を積極的な設定で使用しましたが、マスターチャンネルにインサートしたトータルコンプでは控えめな設定にしています。
レシオは2:1で、ゲインリダクションはピーク時に −1dB ~ −2dBになるようにスレッショルドを設定しています。
まとめ
今回で主要パートのミックスの解説はすべて終わりました。次回から、マスタリング作業の解説に入ります。
「ミックスでベストを尽くす」という言葉があり、ミックスの失敗をマスタリングでカバーすることは非常に難しいため、とにかくミックスで最善を尽くしましょう。
マスタリングは初心者に限らず非常に難しい作業ですが、第17回から数回に渡り、わかりやすく解説します。