数々の美しい音楽を生み出し、多くの人から愛されているショパン。彼の作品の中でも特徴的な黒鍵しか使わない名曲と、あの有名なピアニストとの逸話についてご紹介します。
黒鍵のエチュード
最も多くの人に知られている楽器に『ピアノ』があります。すべての学校の音楽室には、必ずピアノが置かれています。
ピアノの鍵盤はご存知の通り、白い鍵盤(7種類)と黒い鍵盤(5種類)で構成されています。当然、ピアノで弾かれる曲は、白鍵と黒鍵が使用されて演奏されます。
ところが、『ピアノの詩人』として有名なショパンの作品の中に、黒鍵しか使われない曲があります。
それが『黒鍵のエチュード』です。1833年に出版された『12の練習曲作品10』の第5曲目にあたります。
黒鍵のエチュードでは、右手のメロディー(主旋律)が白鍵を一切使いません。それだけなら『珍しい曲』に過ぎませんが、黒鍵のエチュードは非常に綺麗な曲に仕上がっており、多くのプロのピアニストによってコンサートなどで演奏されています。
黒鍵のエチュードの命名
黒鍵のエチュードという曲名は実はショパンが名付けたわけではなく、作品の特徴から自然にそう呼ばれるようになりました。
周りからその曲名で呼ばれるようになった理由は、右手が黒鍵だけ(実際には第66小節の2拍目のヘ音のみ白鍵)で演奏されるからです。
ショパンも、黒鍵だけの演奏ということを意識して作曲したと言われています。
ちなみに、ショパンの作品の中でも人気を博している黒鍵のエチュードですが、ショパン自身の評価はそれほど高くなかったとされています。
単なる練習曲ではない芸術性
ショパンのエチュードは、ピアノの技術をより磨くことを目的として書かれています。ショパンのエチュードとして有名なものには、『別れの曲』や『革命』などがあります。
黒鍵のエチュードも練習曲となっていますが、『ピアノ教室用の練習曲』とはまったく異なります。
単なる指を動かしたり、技術を修得したりするための曲とは違い、高度な技術を必要とすることはもちろん、優れた音楽性を求められる芸術作品となっています。
ピアノ教室用の練習曲は一度で弾ける人でも、黒鍵のエチュードをこなすには数ヶ月かかるのが一般的です。
黒鍵のエチュードは、F(ファ)の音以外はすべてフラットが6個付いている変ト長調です。
楽譜を読める人ならすぐに、「右手が難しそう」と気付くはずです。右手がずっと黒鍵の上にあるのに、あのメロディを奏でるところが、ショパンのショパンたる所以です。
また、テンポの速い曲だけに、右手だけではなく、左手のスタッカートとスラーがリズムをとる上で重要になります。
スタッカートの軽快さと、スラーの美しく流れるような表現をマスターできると、曲にメリハリができます。
リストとの交流
ショパンは若くからその才能が認められ、10代後半の時点で既に地元ワルシャワでは演奏家、作曲家として名声を得ていました。
黒鍵のエチュードは、ショパンが23歳の時にパリで発表された作品ですが、既に音楽家としての地位を確立していた当時の作品になります。
実は、この黒鍵のエチュードを含む『練習曲作品10」は、『ピアノの魔術師』として一世を風靡していた1歳年下の『リスト』に贈られた作品でもあります。
ショパンの友人でもあったリストは、ショパンから『リストのようにピアノを弾きたい』と言わしめるほどの腕前を持つピアニストでした。
ちなみに、リストに贈られた練習曲作品10には、こんな逸話が残されています。
ピアノの名手として名高いリストは、どんなに難しい曲も初見で弾けると言われていましたが、ショパンの『練習曲作品10』は、一度見ただけでは上手に演奏できませんでした。
そのショックから、リストは一度雲隠れしますが、再び現れた時には完璧に演奏されました。
まとめ
黒鍵のエチュードはその名の通り、黒鍵しか使われないという珍しいピアノ曲です。
ただ、ショパンの曲だけに、華麗な響きや軽快なテンポが特徴の名曲になっており、多くのピアニストが演奏し、そしてたくさんの人に愛され続けています。
改めて、この名曲をじっくりと聴いてみてはいかがでしょうか。