『音大で学ぶ作曲』連載第1回では、音大で作曲を学ぶメリットや、意外な意義について考えてみました。
第2回では、作曲で必要な知識について考えてみましょう。
何かを表現するために
何かを表現するために、知っておいた方が良いことがたくさんあります。
表現をする人の中で、その人の知識と経験、そして感受性が絡み合い、そこに表現するという意欲が加わったときに、作品のようなものが生まれるのではないでしょうか。
そしてその知識と経験、感受性が絡み合うこととは、それぞれが足し算されることではなくかけ算されることだと言って良いかもしれません。
たとえば、知識、経験、感受性の大きさがそれぞれ「5」だとすると、それらは「5+5+5=15」と足し算されるのではなく、「5×5×5=125」とかけ算されるということです。
しかしながら、仮にそれぞれの大きさが「1」だとすると、「1×1×1=1」となってしまい、増えることはできません。
そのため、知識や経験、感受性にはある程度の大きさや深さが必要なのではないでしょうか。
今回は作曲で必要な知識について考えてみましょう!
音楽理論ってなに??
音大では作曲に関する知識として音楽理論を学ぶことができます。
音楽理論は大まかに和声法、対位法、管弦楽法、楽式論の四種類に分けられます。
簡単に説明すると、
・和声法:ハーモニーの組み立て方やコード進行についての理論
・対位法:いくつかのメロディを組み合わせる方法についての理論
・管弦楽法:楽器の特徴や様々な楽器の音色を組み合わせる方法についての理論
・楽式論:音楽の形式についての理論
です。
そしてそれらの多くは、200年以上前のヨーロッパの人々の音楽に関する好みや美意識を理論化したものです。
とはいえ、それらの理論は後のクラシック音楽やポピュラー音楽の基礎となり、現代の日本人も多少なりともその影響を受けているのです。
それぞれの理論には教本がたくさんありますが、音大で使用するものとして代表的なものは「和声理論と実習」、「新しい和声」、池内友次郎の「2声対位法」、伊福部昭の「管弦楽法」、石桁真礼生の「楽式論」ではないかと思います。
音楽理論を効率的に修得するために
音楽理論を効率的に修得するために、私の経験上、有効な方法があります。
理論の規則を覚えることも大切ですが、それに加えて教本に記載されている模範例や課題の答えをピアノでたくさん弾くことも大事です。
それは理論を修得するために有効な方法の一つなのです。
というのも、先に述べたように、これらの理論は私たちからすると、時代も地域も異なる人々の好みについての理論だからです。
たとえば和声法の場合だと、その教本に書かれている理論は、多くの場合17世紀から18世紀のヨーロッパで好まれたハーモニーの理論です。
このような異文化の理論を十分に修得するためには、頭で理解するだけではなく感覚的に理解することがポイントです。
そのためにたくさん弾いてみましょう!
音楽理論を作曲に生かす方法についても考えてみよう!
再び和声法の例で言いますと、もちろん17世紀以降のヨーロッパの作曲家たちが必ずしも和声法の理論を厳守して作曲していたわけではありません。
むしろ多くの場合、その理論から意図的に逸脱していて、特にベートーヴェン以降の作曲家たちにはその傾向がよく見受けられます。
つまり音楽理論は厳格な規則なのではなく、あくまでゆるやかな基準線のようなものなのです。
そして過去の作曲家がその基準線からどのように離れたり、その基準線をどのように利用したのか調べてみると、そこからその作曲家の作曲方法が垣間見えてくるのです。
作曲家個人の作曲方法についてまとめられた音楽書もいくつか出版されています(たとえば、ディーター・デ・ラ・モッテの「大作曲家の和声」や「大作曲家の対位法」など)。
しかしやはり、直接楽譜を見て自分で調べてみることが勉強になるかと思います。
実際に楽譜を調べてみることを楽曲分析、もしくはアナリーゼと言ったりしますが、その方法などの具体的なことはまた別の回で紹介したいと思います。
まとめ
さて、音大で学べる作曲に関する授業として、今回は音楽理論について簡単に紹介しました。
そして先に述べたように、音楽理論を、それがただの理論だと考えるのではなく、それが実際に作曲をするときに上手く利用できる基準線だと考えるべきでしょう。
これが、実際に学んだ音楽理論に関することで、一番大事なエッセンスだと私が感じるものです。
かつて先生から言われた、「音楽理論の課題を解くときには、その課題を自分の作品のように思い、自分の作品を作曲するときには理論のことも頭の片隅に置いておいた方がいい」という言葉は、今でもその大切さを感じます。
もちろん音大の作曲科では音楽理論だけを学ぶわけではありません。
音楽理論のレッスンと同じくらい、もしくはそれ以上に大事な作曲実技のレッスンについて、次回の記事でご紹介します。