前回は「声量」をテーマに解説しました。
ここからは実践編として、短い曲を使って練習します。日本の名曲「ふるさと」です。誰もが歌えるこの曲は、いろいろなスキルを掴むためにとても良い練習になります。この曲はおそらく誰もがメロディを歌うことができるため音を取る時間が必要なく、すぐに実践可能なので、この曲を選びました。
曲を使った発声練習
さっそく楽譜を見てみましょう。
歌詞を入れる前に、楽譜を読む復習をしておきましょう。音符の下に音名(ドレミ)を記入してみて下さい。もし分からないところがあれば、これまでの内容を振り返ってみてください。大事なポイントは、この楽譜には調号があるということです。ちなみにこの楽譜は何分の何拍子か分かりますか? それも含めて、今までの復習です。
答えは次の楽譜に記しました。
曲の拍子は4分の3拍子です。楽譜はしっかり読めていましたか? さっそく、この曲を使っての練習に入りましょう。まずはこの曲を、音名(ドレミ)で歌います。
特に問題なく歌えたと思います。これを使って練習をします。
練習①「ブレスなし練習」
皆さんは学校で「V」というブレス記号を習ったことがあるかと思います。ブレス記号の意味は覚えていますか? 「その場所で息継ぎをする」ですね。ただし練習の時は、「その場所までに息を使い切る」と意識してみてください。
それでは1つめの練習です。息をたっぷり吸って、ブレスなしでどこまで歌えるか挑戦してみて下さい。まずは2段ずつクリアしていくようにしましょう。
いかかでしたか? 歌っている時には身体に力を入れないようにリラックスして下さい。さらに、横隔膜を使ってしっかり息をコントロールしましょう。最初は手を使って息の流れを表すのも良いです。普通のポップスを歌う時も、同じように息の流れを意識しましょう。息をたっぷり使って歌うことで、音程も良くなりますし、声量のある声が出ます。
息を使った発声練習ができたら、次は音域を広げる発声練習をしていきましょう。
練習②「半音転調」
この練習では、決して無理して喉を潰さないように注意してください。高音域は裏声が基本です。叫ぶように声を出すのではなく、裏声と表声を混ぜたミックスボイスを目指しましょう。
練習方法は簡単で、曲を半音ずつ高くしていきます。出だしの音をピアノで取って歌うか、伴奏音源がある人はそれを半音ずつ変えていくようにして下さい。カラオケに音の高さを変える機械がありますね。それと同じ要領です。
最後の楽譜は最終的にラ♭まで出てきますので、無理のない範囲で取り組んで下さい。その際も息の流れも忘れずに、しっかり長い呼吸で歌いましょう。歌は体全体を使って歌うものです。ホールいっぱいに声を響かせるイメージで歌って下さい。
2つのトレーニングを行う
練習①「ブレスなし練習」
練習②「半音転調」
曲を使った音感練習
絶対音感と相対音感という言葉を聞いたことがあるでしょうか。絶対音感を辞書で調べると「ある音の高さを他の音と比較せずに識別する能力」となっています。絶対音感がある人は、音楽が流れてきたら、それが全てドレミの音程で聴きとることができるわけです。さらにすごい人は、鳥の鳴き声や椅子がきしむ音まで音程で聴こえてしまいます。この絶対音感は、小さいうちから訓練を受けていないと身につけることはできないとされています。
それに対して相対音感は「ある音の高さを他の音との関係において識別する能力」です。この相対音感は、大人になってからでも身につけることができます。そしてこの相対音感こそが、ぜひ皆さんに身につけてほしい音感です。
その音感を身につけるのに有効になるのが「移動ド唱法」です。これは今まで学んできた楽譜で、どの場所が「ド」かではなく、その調にとってどの音が「ド」になるか、と捉えるのです。
以前、コードの説明時に紹介した英語音名を覚えているでしょうか。おさらいしてみましょう。
この音名を用いて、「ふるさと」の曲について説明します。「ふるさと」の曲の調はFメジャーで、Fを基準に作られた曲です。Fというのは音名でいうと「ファ」。つまり「ファ」をスタートにした音階で作られた曲となるわけです。
このように、本来の「ファ」の音を、移動ドのために「ド」に言い換えたものが、以下の楽譜のようになります。
慣れるまでは見た目にかなり違和感があるかと思いますが、この移動ドの良いところは、一見ややこしそうな楽譜でも、移動ドだと違和感なく歌えることです。例えばAメジャーの「ふるさと」を固定ドで歌おうとすると、
このようになり、音程感覚としては掴みにくくなります。これを移動ドで表してみると、
こうすると、簡単に音程のイメージがわいてきませんか。これが移動ドの良いところで、どんな複雑な調の楽譜でも、移動ドなら簡単に歌えてしまいます。
絶対音感がある方にとっては混乱を招くので、そのまま固定ドで歌ってもかいまいませんが、移動ドにするとレがドに戻る感覚や、シがドに向かう感覚が掴みやすくなるので便利です(専門用語で「ドミナントモーション」と言います)。
これを応用して、途中で転調した場合の練習をしてみましょう。カラオケで途中で音の高さを変えられて歌えなくなった経験はありませんか? 途中で調が変わっても歌い続けられる方は、かなりの相対音感の持ち主です。これを練習に使いましょう。曲の途中で音の高さを上げたり、下げたりして歌うのです。上手く歌うことができたら、「相対音感」が身についています。かなり難しい練習ですが、ぜひカラオケなどで実践して下さい。
次に、これを「ふるさと」を使って練習します。楽譜は全て移動ドで表しますので、途中で調が変わっても、どれが主になる音なのかのイメージを持つ参考にして下さい。自分ひとりで練習する時は、途中で鍵盤で音を出しながら確認するようにして下さい。
いかかでしたか? このように曲の途中で転調しても、その変化に対応して歌える人は、かなり音感があります。これも毎日コツコツ練習を続けて下さい。
3つの「ふるさと」を歌おう
(1)Fメジャーの「ふるさと」を移動ドで歌う。
(2)Aメジャーの「ふるさと」を移動ドで歌う。
(3)途中で調が変化する「ふるさと」を歌う。
リズムをつけた練習
過去に行った練習で、リズムをつけて歌うというものがありました。今回は「ふるさと」にリズムをつけて練習してみましょう。何種類か楽譜を用意するので、練習してみてください。楽譜のレベルは順に上がっていきます。今回は右手と左手でひざ打ち(太もものあたりを打つ)をします。右=R、左=Lで示します。立っても座ってもどちらでも良いです。
この「ふるさと」は3拍子の曲で、1拍目が一番強くなります。正しくは「強く」というより、ウエイト(重み)がかかるといった方が良いかもしれません。大事なことは、1拍目を強く打つことより、1拍目に向かうエネルギーです。足を上げるのが3拍目で、下ろすのが1拍目というように、身体を使ってリズムを感じて歌って下さい。
楽譜2は、8分音符の刻みを打ちながら歌う練習です。
この練習は、テンポをキープすることと、伸ばしの音の長さを正確にカウントするのがポイントです。歌いながらこのように叩くというのは、意外と難しいものです。この練習をするとリズム感は当然良くなりますし、四分音符や付点二分音符などの音の長さも正確に捉えることができるようになります。しっかり練習しましょう。
次は、この楽譜2を少し変形させたものです。
リズム自体はあまり複雑ではありませんが、休符が入ったことによって歌とのズレが生まれて叩きにくい人もいるかもしれません。リズムを大きな波ととらえて、その中で気持ちよく揺れ動くイメージが、いわゆる「曲にノッている」という状態です。歌っていて気持ち良い!と感じるようなビートを刻みましょう。
最後はかなり難しい練習です。テンポを落としても良いでしょう。
十六分音符のリズムをキープするのはかなり難しいですが、とても良い練習になります。最初は手だけでリズムを取るより、足で拍の頭のリズムを打った方が合わせやすいです。
4つの楽譜を完璧にできるまで練習しよう
慣れるまで繰り返し練習して下さい。
終わりに
今回は「ふるさと」を使って説明しましたが、他の曲での練習もしてみて下さい。なるべく自分が歌いやすく慣れている曲を使うと良いでしょう。
可能であればどんどん録音をして、自分の歌をあとで聴いてみて下さい。予想していたものと違って驚くことでしょう。歌っている時はなかなか客観的に自分の声を聴くことはできません。プロが歌が上手いのは、やはり何度も歌って自分の声を聴いて歌い直しているからです。「これくらいでいいや」ではなかなか上達しません。ぜひ録音して振り返りをしましょう。