【ポップス分析13】『Universe』のリズムとモティーフのブレンドを味わう

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目次

音楽のリズムと歌詞の韻

フランスの詩人ポール・ヴェルレーヌは「何よりも先に音楽を」と述べ、音楽的な流れで紡ぎ出された言葉によって多くの魅力的な詩を生み出しました。言葉にはその言葉の意味だけではなく、その言葉が本来持っているリズム感があります。音楽の中で歌詞、言葉のリズム感を活かす方法として、いわゆる「韻を踏む」ことが挙げられます。以前に『波乗りジョニー』を取り上げた際にも韻を踏んでいる箇所が見られましたが、そのことによって音楽のノリが良くなりましたね。

2020年前後から多くの人気を得ているグループの一つとしてOfficial髭男dismがあります。彼らの楽曲には韻を踏むことでリズムが魅力的になっている箇所がよく見られます。その中でもとりわけ『Universe』はボーカル藤原聡もインタビューの中で「この曲は韻がすごい大事だった」(Official髭男dism「Universe」特設サイト(https://universe.ponycanyon.co.jp)より)と述べるほど、韻を踏むということとリズム感に重点が置かれた楽曲です。

今回は『Universe』をリズムの観点からアナリーゼし、その上でリズムが楽曲全体にどのような機能を持っているのか考察してみましょう。

Universe』に何度も出てくる特徴的な音型

まず『Universe』の構造を調べてみましょう。この楽曲の構造は次の通りです。

表『Universe』の構造

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最初に注目したい箇所はサビに当たるCフレーズです。サビの歌詞は次のようになっています。

“0点のままの心で暮らして

笑って泣いて 答えを知って

満天の星の中僕の惑星

彷徨ってないで こっちへおいで

『Universe』(作詞:藤原聡)より※下線引用者

下線部は韻を踏んでいる箇所になります。「i-te」という発音で韻が踏まれていますね。韻が踏まれている箇所をもう少し掘り下げてみましょう。下線部に付けられている音型は次の通りです。

譜例1

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この音型のリズムはCフレーズの歌詞で韻が踏まれるときに用いられます。韻を踏むということは楽曲のリズム感を良くすることでしたが、韻を踏むことにより同時にこの音型のリズム的な特徴がより印象深くなります。

また、何度か楽曲を聴くと、この音型のリズムと似たものが楽曲のあらゆるところで使われていることがわかります。たとえばイントロのおおよそ開始5秒後に次のようなフレーズが3度出てきます。

譜例2

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さらに若干雰囲気は変わるものの、Eフレーズでも譜例1と譜例2と同じリズム的特徴を持った音型が使われます。

譜例3(該当箇所以外の音符は×印にしています。)

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「モティーフ」と「変奏」と「統一感」のはなし

このように楽曲の中で何度も用いられる小さなフレーズ、音型のことを「モティーフ」と言います。有名な例ではベートーヴェンの「運命」のモティーフが挙げられます。

譜例4

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このモティーフは「運命」の一楽章の中で形を変えながら頻繁に用いられます。

しかし、同じモティーフを楽曲の中で何度も用いていると人はマンネリ、飽きを感じてしまいます。何事にも適度な変化は必要です。そのためにモティーフも適度に変化しなければいけません。

モティーフやフレーズの形を変えることを「変奏」と言います。モーツァルトに「きらきら星変奏曲」と呼ばれる楽曲がありますが、この曲はいわゆる「きらきら星」のメロディを色々な手法で変えることで構成されている楽曲なのです。そうすることによって聴き手も楽曲に飽きないようになります。

譜例5

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ちなみに、モティーフと同じような用語として「動機」と呼ばれるものがあります。モティーフと動機をはっきりと分けて理解するべきだと考える人もいますが、それは一般的には重要なことではないので、ここではモティーフと動機は同じものだと考えて問題ありません。

大事なことはモティーフ(もしくは動機)が楽曲の中でどのような役割を担っているのか考えることです。モティーフの役割の1つは楽曲に統一感を与えることです。楽曲のはじめから終わりまで1つの主要なモティーフが一貫して使われていればその楽曲には統一感が生まれます。

それは映画やドラマ、テレビ番組でも同じです。一つのストーリーの中には様々な登場人物が出たり、もしくはいなくなったりしますが、主要な登場人物は基本的に最初から最後まで一貫して出てきます。ストーリーの都合で途中から出てこない場面があったとしても、主要な人物は物語中で重要な役割を果たしているものです。

フジテレビに「世にも奇妙な物語」という番組がありますが、この番組では複数の短い物語が放送されます。それらの短い物語はそれぞれで完結するため、基本的にはお互いに関連してはいません。そしてある物語で出た人物がその次の物語で出てくるということもほとんどありません。それでは何がこの番組を1つのテレビ番組にまとめているのでしょうか。

それはストーリーテラーとして物語と物語の間に登場するタモリです。彼はそれぞれの物語の中で何かしらの役割を持っているわけではありませんが、番組全体の統一感を作るための重要な存在になっています。物語には直接関係ないのにも関わらず、もはや「世にも奇妙な物語」と言えばタモリというイメージがありますね。このように全体を統一するモティーフは、その音楽や映画、ドラマ、テレビ番組から連想されるイメージ、顔になります。

主要なモティーフには音楽や物語の中で統一感を作るための役割、機能があり、そしてそれは全体のイメージを作ることにも繋がります。そしてモティーフが主要なモティーフであるためには、そのモティーフにも個性や性格がなければいけません。音型の頭に付いている八分休符と、それに続く3つの八分音符が「運命」のモティーフの特徴であり、黒いジャケットを着て、サングラスを付けることが「世にも奇妙な物語」のストーリーテラーとしてのタモリの特徴であります。(NHKの「ブラタモリ」に出ているタモリと「世にも奇妙な物語」に出ているタモリとでは服装も語り口も雰囲気も全く違いますね。)

さて、Official髭男dismの『Universe』に話を戻してみましょう。Cフレーズに用いられていた音型はイントロやEフレーズでも使われていましたが、さてこの音型の個性、特徴とは何でしょうか?

それはリズムです。先ほども述べましたように、Cフレーズに用いられていた音型がイントロやEフレーズにも出てくると考えることができたのは、まさにこのリズム的な特徴のためでした。

そして、このリズム的な特徴を持った音型は全体の統一感を作り出しています。このように、この音型は『Universe』の中で重要な音型であると言えますので、便宜上「『Universe』のモティーフ」と名付けましょう。

譜例6

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Universe』に見られる「統一感を作りつつ変化をつけるための工夫」

しかし、同じモティーフを同じように使うだけでは聴き手は飽きてしまいます。そうならないためにも変奏することが必要でしたね。『Universe』では人が楽曲に飽きないようにリズム上の工夫がされています。

まず先ほど少し述べましたが、Eフレーズに出てくる『Universe』のモティーフは、元の『Universe』のモティーフを若干変化したものになります。これも変奏の1種です。

譜例7(該当箇所以外の音符は×印にしています。)

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譜例7のように、☆マークの音が休符になり、拍をずらすと『Universe』のモティーフと一致することがわかります。また!マークの箇所で音が伸ばされることによってゆったりとした雰囲気になっています。同じ『Universe』のモティーフでも違った印象になります。

1つのモティーフの変奏だけではなく、他の方法でもリズム的な工夫が見られます。Bフレーズに注目してみましょう。まずは歌詞を掲載します。

“嬉しい悲しいどっち 正しい間違いどっち”

『Universe』(作詞:藤原聡)より※下線引用者

下線が引かれている“どっち”で韻を踏んでいることがわかります。この箇所に付けられている音型は次の通りです。

譜例8

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この音型は『Universe』のモティーフとはリズムが異なるのでこの変奏ではありません。しかし、“どっち”という言葉で韻を踏んでいるため、この譜例8の音型もリズムが印象深く聴こえます。

つまり『Universe』には、『Universe』のモティーフだけではなく他にもリズムが印象的なモティーフがあるのです。ここでも便宜上、譜例8に「“どっち”のモティーフ」と名前をつけて整理しましょう。このように1つの楽曲の中で複数のモティーフを用いることは楽曲に変化をもたらすための重要な手法です。これは古典的な手法でもあります。

さらにDフレーズには次のような音型が用いられています。

譜例9(該当箇所以外の音符は×印にしています。)

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この音型は楽曲のそれまでの流れの中で出てこなかったリズムの特徴を持っています。そのリズムの特徴とは、譜例中の“見ていた”“手のひら”に当てられている音にアクセントが付けられていることです。このようなリズム的特徴から譜例9は新しいモティーフだと考えることもできます。

ただし、この譜例9は“どっち”のモティーフの変奏だとも考える人もいるでしょう。と言いますのも次のように、“どっち”のモティーフのリズム的特徴が2回続いているものだと考察することができるためです。

譜例10(該当箇所以外の音符は×印にしています。)

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このように考えても間違いではありませんが、どちらにしてもDフレーズのモティーフにはマンネリを回避するためのリズム的な特徴があることに変わりはありません。

最後に、リズムとは関係ないのですが、Eフレーズと3番のCフレーズの間で転調がされています。この転調の方法はポップスにおいてよく見られる方法ですが、このことも楽曲に変化をもたらす工夫の一つであります。

まとめ

今回はOfficial髭男dismの『Universe』をアナリーゼしました。この楽曲では私たちが名付けたところの「『Universe』のモティーフ」が主要なモティーフとして楽曲全体に用いられていました。そのことによって楽曲全体の統一感が生み出されていましたね。

しかし、『Universe』のモティーフをそのまま使うのでは、統一感は生まれても変化に乏しい印象を与えてしまいます。そのためにマンネリ感を回避するための手法として「変奏」が挙げられました。変奏をすることによって『Universe』のモティーフは楽曲全体の統一感だけではなく、「変化」も作り出しているのです。

また変化をもたらすために、複数のモティーフを用いることリズム的な特徴の異なる音型を用いること楽曲の途中で転調することも『Universe』から見られる工夫でした。

以上の特徴のほとんどが音型のリズムに基づくものです。1小節にも満たないリズム的な特徴が発展して1つの楽曲に仕上がります。

そして『Universe』のすごいところは、このように複雑な音の処理をしながらも、あくまで一つのJ-popとして聴きやすいものに仕上げているところです。この楽曲は映画「ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」の主題歌になっていますが、藤原聡がインタビューの中で「子ども向けにとかそういうことでは全然なくって、いつも通りの我々でしっかり楽曲に向き合っていくことを大事に」したと述べているように(Official髭男dism「Universe」特設サイト(https://universe.ponycanyon.co.jp)より)、Official髭男dismらしさというものが注ぎ込まれている楽曲だと言えるでしょう。

このように一度聴いてはわからない複雑な音の処理は、まるで味わえば味わうほどその魅力がわかってくる「名店のコーヒー」のような趣を感じさせます。

さて、今回はリズムに注目して、そのリズムに基づいたモティーフを見つけ出しました。今回のアナリーゼの方法は初心者の方にとっては難しいもので、そのためには慣れが必要です。慣れるための第一歩として、歌詞で韻が踏まれている箇所を探すということから初めてみると良いかもしれません。歌詞の韻は楽曲にリズム感をもたらします。そしてそのリズム感はリズム的な特徴となり、さらに1つのモティーフになることがあります。韻を踏んでいることが特徴的な楽曲であればその可能性は大きくなります。リズムが楽曲にどのような効果をもたらしているのか聴き調べてみてくださいね。

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