憧れの作曲家に近づき、その作曲方法を修得するための第一歩は、楽曲分析をすることです。楽曲分析を通して、作品の魅力を作り出す楽譜に隠された秘密を見つけてみましょう!
憧れの作曲家に近づくために
皆さんにも、憧れの作曲家がいるのではないでしょうか。過去の作曲家たちも同じで、ブラームスにとってそれはベートーヴェンでしたし、ドビュッシーにとってそれはサティでした。
憧れの作曲家に近づき、その作曲方法を修得するための第一歩は、楽曲分析をすることです。楽曲分析はアナリーゼとも呼ばれます。
アナリーゼを通して、作品の魅力を作り出す楽譜に隠された秘密を見つけてみましょう!
アナリーゼのいろいろ
楽曲分析は、専攻によって目的が大きく異なってきます。
演奏に関わる学生や、学問的に音楽を研究する音楽学の学生にとって、楽曲分析は「作曲者を理解するための一つの手段」です。
彼らは作品を演奏、研究するために楽曲の分析をするだけでなく、その作曲者のことや、その作品が書かれた時代背景、また、その作品を過去の音楽家や研究者がどのように解釈していたかということなど、様々なことを調べます。
それらを総合し、より正しく理解することが目的なのです。
作曲の学生や教員の多くは、楽譜上の情報のみを分析し、そこから解釈をするべきだと考える傾向にあります。
つまり、その作曲者のことや作品の時代背景はそこまで重要ではなく、書かれている音がどのような効果を生み出しているのか、ということを探り、吸収する試みが、彼らにとっての楽曲分析です。
この考え方は、当然のことではあります。作曲の学生にとっては、自分の作曲に生かすために、楽曲分析を通して、他の作曲家の作曲方法を修得することが重要なのです。
この特徴は、既存の作品を取り扱う演奏家や研究者と、まだ存在していない作品を自ら生み出す作曲家の立場の違いによって生じているものです。
作曲家の楽曲分析に対するこの立場は、とても合理的なものでありますが、この立場からは作品の一側面だけしか理解できないものだということを、心にとどめておく必要があるでしょう。
作曲者や作品をより深く、より正しく理解するためには、その作品にまつわる様々なことを理解し、総合的に解釈するべきなのではないでしょうか。
作曲に生かすための楽曲分析
作曲に生かす楽曲分析をするために注目してほしいことは、次の5つです。
① 作品の形式は何か?
② 和声的な特徴はあるか?
③ 曲のクライマックスはどこか?
④ 重要なモティーフはあるか?
⑤ 全体を通して印象に残る特徴的な箇所はあるか?
作品の形式は何か?
楽式論の知識を持ち合わせていて、作品がよほど複雑でないものであれば、数回聴き通せば分かるものです。
最初に現れたメロディが最後に再び現れるのであれば、その作品は3部形式ですし、一つのメロディが他のメロディをはさんで何度も現れるのなら、ロンド形式です。
和声的な特徴はあるか?
これには、和声法の知識が必須です。次の譜例を見てください。

これはベートーヴェンのソナタの冒頭です。
4小節目から5小節目に変わるときに、ハ長調のVの和音から変ロ長調のI和音に転調しています。この転調は、和声法的に安定した転調法ではありません。
ところで、調の関係には近い調と遠い調があります。ハ長調の場合でしたら、属調のト長調と下属調のヘ長調は近い調です。その関係を簡単に表すと
変ホ長調―変ロ長調―ヘ長調―ハ長調―ト長調―ニ長調―イ長調
となります。ある調から遠くなればなるほど遠い調といえます。変ロ長調は比較的遠い関係となります。
このソナタでは、冒頭で安定した転調をせずに、普通でない転調をすることによって、不安定さが生じます。そしてこの不安定さによって、安定したものに戻りたいという和声のエネルギーを増すことができるのです。
またソナタ形式の場合、第1主題の後に続く第2主題は、属調に転調して演奏されることが定型的です。
この場合だと、原調がハ長調ですので、第2主題はト長調となります。変ロ長調とト長調は遠い関係の調なので、この転調の過程はより劇的なものになります。
曲のクライマックスはどこか?
クライマックスは、聴いてみることによって判断できます。
盛り上がり方はいろいろです。多くは曲の真ん中より少し後の方にクライマックスがきますが、ボレロのように一番最後にクライマックスが来るような曲もあります。
重要なモティーフはあるか?
シェーンベルクの「作曲の基礎技法」を読んでいると良いかと思います。この本の中では、多くの譜例によってモティーフがどのように展開しているのかが詳しく書かれています。
「作曲の基礎技法」はこちらの記事でもご紹介しています。

全体を通して印象に残る特徴的な箇所はあるか?
印象に残る特徴的な箇所について調べることも、とても重要です。
その際に、自分自身が作品のどの部分に惹かれるのかということを考えてみると良いでしょう。
この惹かれる部分から、自分自身の個性に繋がる何かが見つかるかも知れませんし、そこから得られる秘密の作曲方法は貴重なものでしょう。
まとめ
さて、今回の記事では楽曲分析をする目的について考えた上で、作曲に生かすために何をするべきか紹介しました。
楽曲分析を通して、作品に隠された秘密を探ってみましょう!
