連載【目指せ!小説家】第7回では、「本文を執筆する」工程について解説しました。
第8回は、書いた小説をもっと良くするための「推敲」の工程について説明します。
はじめに
ここまで、執筆の一通りの工程を確認してきました。
テーマを決めて、物語を作りこみ、キャラクターを創造し、これに沿って小説本文を執筆したのであれば、小説は完成したと言って良いでしょう。
もしもあなたが一本の小説を書き終わったのなら、あなたは満足感と興奮でいっぱいになっているかもしれません。
しかしそこで一度立ち止まって、書き終わった小説ともう一度向き合ってみましょう。
せっかく苦労して書いた小説です。
少しでも良く、少しでも面白くしてあげたいものですね。
推敲しよう
プロの作家の場合、小説を出版する前には必ず『校正』が挟まれます。
これは、出版社が委託する文章校正のプロに作品を読んでもらい、言葉の誤用や文法の誤り、果ては描写同士の矛盾を洗い出してもらう工程です。
筆者もこの校正を何度か受けた経験がありますが、書き終わった小説というのは、驚くほど大量のミスで埋め尽くされています。
それは誤字脱字に限らず、ひどい時には登場人物の服の色が、数行後には変わっていたりもします(他にも、本当に信じられないような間違いがたくさんあります)。
長編小説は10万字単位の文章の集合体ですので、そういったミスが多発するのは仕方がありません。
書いている最中にどれだけの注意を払ったところで、人間が書く以上、こればっかりは避けられないのです。
したがって、書き終わった小説は必ず推敲されなければなりません。
しかし、小説を書き終えたばかりの作家というのは興奮状態であることが大半ですので、作品をいったん自分から遠ざけて「寝かせて」やる必要があります。
寝かせる期間は人によって様々ですが、少なくとも一週間、できれば一か月は欲しい所です。
そうやって時間を置いて、作品と冷静に向き合えるようになった頃、推敲のためにもう一度、自分の小説を手に取ってみましょう。
どうやって推敲する?
推敲の第一の目的は、誤字脱字を発見することです。
これは、とある脚本家のお話ですが、新人が持ってきた原稿を読むとき、最初の章に誤字脱字があったら読むのをやめてしまうという人もいます。
注意深く一行ずつ読み進めて、一つでも多くの誤字を修正しましょう。
推敲の第二の目的は、文章をブラッシュアップすることです。
初稿というのは、概して文章の質が低くなってしまう傾向にあります。自分の書いた文章を声に出して読んでみて、おかしな文章を探し出しましょう。
一通りのチェック項目を以下に紹介しておきます。
1 リズムの悪い文はありませんか?
2 繋がりの悪い文はありませんか?
3 重複している表現はありませんか?
4 不自然な描写はありませんか?
5 もっと簡潔にできませんか?
6 文中の形容詞や副詞を削除できませんか?
7 頻出している語句はありませんか?それは言い換えられませんか?
8 もっと良い比喩表現はありませんか?
9 受動態(~される)の文は能動態(~する)の文に変換できませんか?
10 読点、句読点の位置は適切ですか?
ザっとこの辺りをチェックしておけば良いでしょう。
また、文章だけに限らず、物語全体の矛盾点や描写の不足にも注意を払うようにしてください。
人に読んでもらう
こうして一生懸命推敲しても、自分ひとりではどうしても限界があります。
一通り推敲が終わったならば、他の人にも小説を読んでもらいましょう。
その際には文章だけでなく、物語や登場人物について、広く意見をお願いします。
きっと、自分だけでは気づけなかったことを指摘してくれるはずです。
村上春樹氏は、書いた小説を妻にチェックしてもらうと語っています。
奥さんに読んでもらって、さまざまな指摘を受けて、それを一つ一つ吟味しながら小説に反映させていくわけですね。
時にはその妻の指摘により、せっかく書いた章を丸々削除したこともあるそうです。
注意しなければならないのは、指摘は全て甘んじて受け入れるべきですが、その全てを作品に反映させる必要はないということです。
数多の指摘の全てに対応していると、きっと物語はしっちゃかめっちゃかになってしまい、最初に思い描いていた着想からもかけ離れてしまうかもしれません。
それは正しい指摘なのか? 作品に反映させるべきか? 問題を解決するためのより適切な方法はないか? 修正が他の要素と衝突しないか? そもそも最初のコンセプトを見失ってはいないか? 絶対に譲れない部分はどこか?
これらについて熟考するのも、推敲の一つです。
おわりに
推敲は時に、執筆そのものよりも長く、難しい作業になりがちです。
時には袋小路に入ってしまい、どう修正したら良いかわからなくなってしまうこともあるでしょう。
より良い小説にするために、せっかく書いたものの大部分を破壊する羽目になるかもしれません。
しかし、そういった「小説をもっと良くしよう」という姿勢こそが、その作業の積み重ねが、あなたの小説執筆能力を少しずつ高めてくれます。
もしかしたら、最後まで満足のいくものはできないかもしれません。
最後には〆切がやってきて、納得のいかないままで送り出すこともあるかもしれません。
それでもくよくよせずに、新しい作品に取り掛かりましょう。きっと次の作品では、もっと上手く書けるはずですよ。