自然なリズムには安定感がありますが、曲を面白くするためには、時に「遊び」や「緊張」が欠かせません。
どのような表現があるのでしょうか。そしてそれは、楽譜にどのように書かれるのでしょうか。今回は、複雑なリズムについて学びましょう!
はじめに
第4章で「リズムについて」という項目がありましたが、初歩の段階だったので拍子の種類の説明だけで終わっていました。
間に楽語や小節の操作などの回を経て、音楽に関する知識を取り入れた今こそ、複雑なリズムの用法を頭に入れてしまいましょう。
拍子記号の表し方
前回の記事、第7章「小節について」の補完でもあります。
曲の途中で拍子記号が変わる場合は、区切りであることを分かりやすくするため複縦線を用いるとご説明しましたが、拍子記号の変化と同時に五線の段が変わる場合は、前の段の最後にも新たな拍子記号を書いておきます。
段が変わってからの表記だと、とっさに反応できないことがあるため、前の段で情報を出しておくのです。人間は同じ段の情報であれば、目の端で捉えることが可能です。
余談ですが、初見演奏の得意な人は、だいぶ先まで譜読みをしながら演奏をしています。左のページの真ん中あたりを演奏しつつ、既に目は右側のページを追っていることもあります。こういう人なら、拍子記号の予告は不要ですね。
なお、拍子記号は大譜表やスコアの場合、全ての段に表記します。
記譜ソフトであれば自動表記してくれますが、手書きの時は注意しましょう。
タイ(Tie)
拍子記号に沿った自然なリズムの流れがあります。4分の2拍子なら「強、弱、強、弱」、4分の3拍子なら「強、弱、弱、強、弱、弱」、というものです。
歩くリズムであったり、それに1拍のゆとりを入れて舞のリズムにしたり、というものが拍子の元となっているので、拍子に沿い続けることは安定感をもたらします。
しかし時には「遊び」も必要です。「タイ」を用いると、リズムに少しずれを生じさせることができ、遊びの効果を出すことができます。
以前、演奏記号に出てきた「スラー」は、複数の高さの違う音に弧線を掛け、滑らかに演奏する指示をするものでした。
一方、タイは、同じ高さの音を弧線で繋ぎます。繋がれた後の音は弾き直しせず、音符の長さ分、前の音から続けます。
下の楽譜は、2つともスラーです。2小節目、同じ音の上に弧線がかかっていますが、音符の上にかかっているだけですので、こちらもスラーです。
タイは下の楽譜のように、音符と音符が結ばれます。
2小節目の最初のソの音は弾き直しをせず、延ばしたままにします。つまり、合せて2拍分の長さを演奏することになります。
タイがないと、このように小節を跨いで音を延ばすことができません。リズムを面白くするために欠かせない記号です。
たとえばこのようなメロディーに……
小節を跨いだタイを加えてみましょう。
これは少しやりすぎですが、程よく使うとリズムが生き生きしてきます。
ちなみに、スラーもタイも、英語です(tie=結ぶ。ネクタイのタイですね)。なぜイタリア語ではないのか?とお思いかもしれません。
あくまでも想像ですが、日本では、用語についてはクラシックの楽譜にあるイタリア語をそのまま受け入れ、記号については最初に入ってきた外来語を受け入れたのではないでしょうか。
どちらも「外国語」なのでまあ良いのでは、となったのかもしれません。ですから、イタリアで「スラーで弾いて」と言っても通じません。
シンコペーション
先ほどご紹介した、タイを用いた2つのフレーズ、それぞれ1小節目から2小節目は、本来の強拍部ではなく、タイの始まる音を少し強めに演奏する方が演奏しやすくありませんか?
私たちは、長い音符と短い音符だと、知らず知らずのうちに長い音符にアクセントを置いてしまうのです。
上記の1小節目から2小節目は、タイで延ばした音の長さがその前後の音の2倍かそれ以上になっており、本来小節の頭にくる強拍部が前の小節の終わりに前倒しになっているように聞こえます。
このように、通常のリズムの流れが少しずれるように変化した状態を、シンコペーションといいます。
無理やり用いる必要はありませんが、曲の適所に使うことで、時には遊び、時には緊張といった効果を出すことができます。
タイは、小節を跨ぐ時だけでなく、小節内にも用いてシンコペーションのリズムを表すことができます。下の楽譜は、1拍目と2拍目の間の音をタイで繋いでいます。
この場合、8分の6拍子ということをしっかり意識してリズムを取らないと、シンコペーションではなく、シンプルな4分の3拍子になってしまいます。
本来の拍子が持つリズムをあえて変化させているのですから、演奏する側は注意が必要です。
上のメロディーで、2小節目の1拍目から2拍目、3拍目から4拍目もシンコペーションのリズムですが、タイを使っていません。
4拍子は2拍子を2つ合わせたものですから、慣れれば視覚的に2拍ずつまとめられます。そうすると細かくタイで繋ぐより、上のような書き方の方がすっきりと見やすく感じます。
シンコペーションのリズムに、すべてタイを用いることも間違いではありませんが、さじ加減が難しいところです。
なお、シンコペーションを意識すると、自然とアクセント記号がついている音を強めに演奏できると思いますが、こちらもやり過ぎには注意です。
まとめ
今回は、複雑なリズムについて学びました。
ポップスのメロディーでは、ほぼすべての部分で当たり前のようにシンコペーションが使われていると言っても過言ではありません。
特に歌の曲だと、シンコペーションを多用した方が「ため」と「流れ」のコントラストがはっきりし、歌いやすくなるというのもあるようです。ただし、伴奏のパートできちんと拍を刻んでいることが前提となっています。
さて、これまでに、主に楽譜の読み書きについて学んできました。次回からは、音楽の文法に進みます。