【はじめての和声法】04.和音のいろいろな形、いろいろな記号

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和声法 音楽理論
目次

フランス式?ドイツ式?

前回までの和声法の解説では、三和音の作り方と和音の繋げ方について紹介し、その中で「転回形」について触れました。今回は和音の転回形をどのように使うことができるのか解説します。

ところで、和声法の中では音階上の主和音に当たる和音をI、属和音に当たる和音をVと表記するということを紹介しましたが、さらに転回形の表記の方法もあります。

ただ、この表記の仕方には大きく分けて、①『和声 理論と実習』で用いられている方法②フランス式の方法③ドイツ式の方法の三通りあり、その中からどの方法を採用するのか選ばなくてはいけません。

この解説の中では、①『和声 理論と実習』の中で用いられている方法を用いたいと思います。実はこの教本で用いられている和音の表記法はとても独特なもので、世界的には②のフランス式が用いられる傾向にあります。ドイツではドイツ式が用いられますが、フランス式も用いることがあるようです。日本国内でも、最近、東京藝術大学の和声法の教科書に採用された『新しい和声』では、フランス式を導入しています。

そのような中でなぜ「日本式」とも言える『和声 理論と実習』の和音表記法を採用するのかと言われますと、現時点で国内で出版されている音楽の解説書の多くでは、この『和声 理論と実習』の和音表記法が用いられているからです。

なので、趣味として音楽を楽しんでいる方にとっては、音楽の解説書やプログラム・ノートなどを読む際に、『和声 理論と実習』の和音表記法を知っていると役に立つこともあるでしょうし、作曲家を目指す方にとっても同様に、音楽の分析書などを読む際に役に立つことでしょう。

では、方法によって和音表記の仕方はどのように異なってくるのでしょうか? それをまとめたのが下の表です。

和声 理論と実習 主和音 転回形 和声法 音楽理論

『和声 理論と実習』式の方はとてもシンプルです。第一転回形であれば、Iの隣に1を記入してI1と表記します。同様に第二転回形であればIの隣に2を、また第三転回形であれば3を記入します。

フランス式は少し複雑です。その表記法は基本的に、バスの音と和音の第1音である根音との音程がどのようになっているのかによります。たとえばCdurの主和音の第一転回形は、バスがeの音になります。eとその和音の根音であるcとの音程は6度なので、Iの隣に6を記入して、I6となります。同じ和音の第二転回形の場合、バスはgで、gと根音との音程は4度となるので、I4となり、ここにさらに、バスgと第3音eの音程である6度も加わり、I46と表記されます。

ドイツ式は特殊で、『和声 理論と実習』式やフランス式のように、I、やII、Vなどで和声を表しません。ドイツ式は和音の機能を表すことに特化したもので、主和音であればトニカのTで、属和音であればドミナンテのDで表します。そして、第一転回形であれば第三音がバスに置かれるので、Tの下に3を記入して3と表記されます。

この解説では『和声 理論と実習』式を取り入れますが、少し慣れてきたらフランス式にもチャレンジしてみましょう。

和音の第一転回形

まずは和音の第一転回形について学んでみましょう。第一転回形ではバスに第3音を置きますが、その場合、いくつかの教本では次の譜例のように、上三声には第3音を含まない方が良いとしています。

譜例1

第一転回形 和声法 音楽理論

しかしながらこれからの解説では、第一転回形でも上三声に第3音を含むか含まないかという判断は自由であるということにしたいと思います。理由としては、上三声に第3音を含むことによって、和声法的に問題が生じるとは必ずしも言えないからです。

また、ある和音が美しいかどうかということの判断は、みなさんの耳でできるようになることがベストです。なのでこの点については自由にしたいのですが、ただ次の場合は上三声に第3音を含むことができません。

譜例2

第一転回形 和声法 音楽理論

これはV1の和音ですが、バスに導音であるhがあり、さらに上三声にも導音hがあると、必然的にその2つのhは主音であるcに進行し、連続8度が生じてしまいます。

譜例3

連続8度 第一転回形 和声法 音楽理論

このように、一つの和音の中で導音を重ねると連続8度が起きてしまうため、V1の上三声に第3音を含むことは禁じられます。V1に限っては次のように第3音を上三声に含まないようにしましょう。

譜例4

第一転回形 和声法 音楽理論

さて、和音の第一転回形は、基本形へも第一転回形へも進むことができます。しかし、バスの進行は次のように順次進行することが多いです。

譜例5

順次進行 第一転回形 和声法 音楽理論

その際の繋がり方には注意を要する場合があります。たとえば次の和音を見てみましょう。

譜例6

第一転回形 和声法 音楽理論

この和音はCdurのI1の和音です。この和音がIVの和音に進行する場合、上三声はどのように進行するのでしょうか? 以前の解説で、二つの和音の中に共通する音がある場合、その音は動かさないと解説しましたが、たとえばその規則に則って次のように進行すると禁則(連続8度)が生じてしまいます。

譜例7

第一転回形 和声法 音楽理論

なのでこの場合は、共通音があるのにもかかわらず、連続8度を避けるため、「バスが上行する場合、上三声は下行し、バスが下行する場合、上三声は上行する」という方法を採ります。先ほどの譜例ではバスがeからfへと上行していますので、上三声は下行することになります。

譜例8

第一転回形 和声法 音楽理論

第一転回形の上三声に第3音を含まない場合は禁則が生じにくく、比較的楽に扱うことができます。

譜例9

第一転回形 和声法 音楽理論

それでは例を参考にしながら、次の練習問題に取り組んでみましょう。

練習問題1

第一転回形 和声法 音楽理論

解答例

第一転回形 和声法 音楽理論

和音の第二転回形

次に第二転回形について解説します。第一転回形では、バスに置かれる第3音を上三声には含まない方法を採ることができましたが、第二転回形の場合はバスに第5音が置かれ、その上三声にもほとんど第5音を含みます。含まないことは基本的にありません。

譜例10

第二転回形 和声法 音楽理論

さて、その第二転回形は次のようなバスの進行で使われることが多いとされています。

譜例11

第二転回形 和声法 音楽理論

参考として、それぞれに上三声を付けてみると次のようになります。

譜例12

第二転回形 和声法 音楽理論

他に、次のような使われ方もします。

譜例13

第二転回形 和声法 音楽理論

これには少し説明が必要なのですが、このI2とVの組み合わせはまとめてドミナンテと解釈されます。つまり、Iの和音は本来トニカの機能を持つものなのですが、Iの第二転回形がVと1セットになるときに、この和音はドミナンテとなるのです。高度な和声法の知識が必要になるので詳しい解説は別の機会にしますが、I2はVとセットになることによって、そのセットはドミナンテの機能を持つということを覚えておきましょう。

では、第二転回形についての練習問題に取り組んでみましょう。

練習問題2

第二転回形 和声法 音楽理論

解答例

第二転回形 和声法 音楽理論

最後に、今回の課題も出します。第一転回形も第二転回形も含まれているバス課題です。

課題1

第一転回形 第二転回形 和声法 音楽理論

課題2

第一転回形 第二転回形 和声法 音楽理論

前回の答えの例も記載します。前にも書きましたように、バス課題の答えにはいろいろなものがありますので、この答えは参考例としましょう。自分で作った解答と比較することも和声法の良い習得方法の一つなので、それを試みることもおすすめします。

課題1解答例

和声法 音楽理論

課題2解答例

和声法 音楽理論

まとめ

今回は和音の表記方法と転回形の扱い方について解説しました。

和音の表記方法には大きく分けて、『和声 理論と実習』式、フランス式、ドイツ式があり、この解説では『和声 理論と実習』式を採用しますが、世界的に使われているのはフランス式なので、作曲家を志す場合はフランス式になれる必要もあるでしょう。

和音の第一転回形でも第二転回形については、連続8度や連続5度が生じなければ基本的にその扱い方は自由です。禁則が生じていないことに注意しつつ、自分にとって美しい和声を作れるように努力しましょう。

和声法の教本
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