音楽をもっと楽しみたい……それなら知っておきたいのが「音楽理論」。音楽理論は、本格的に音楽を作ったり演奏したりする人はもちろん、楽しく音楽を聴きたい人にとっても、とても役に立つ知識です。
初心者にもわかりやすく、レッスン形式で解説しますので、ぜひ楽しく学びましょう!
※この記事は、連載【はじめての和声法】と【はじめての対位法】に共通する導入部分です。
はじめに
この連載では、音楽理論のうち、「和声法」と「対位法」について、初心者にもわかりやすく解説します。より豊かな音楽鑑賞につなげるための和声法と対位法について、レッスンのような形式で進めていきます。
和声法とは、ハーモニーの組み立て方やコード進行についての理論です。そして対位法は、いくつかのメロディを組み合わせる方法についての理論です。
音楽を理解しながら聴くということによって、その音楽の美しさにより近づくことができることでしょう。
もちろん、それらは作曲をする際にも役立つ知識です。初心者のアマチュア作曲家にとっても、大きな学びになる内容です。
本編の前に、和声法と対位法を理解するために必要な「楽典」の知識を学びます。
連載【はじめての楽典】と重複する部分もありますが、今回は練習問題を取り入れていますので、ご自身で解きながら楽しく読んでみてください。
「楽典」を学んでみる
「和声法」と「対位法」を学ぶ前に、より基礎的な音楽理論を学びましょう。その基礎的な音楽理論のことを楽典といいます。
音楽高校や音楽大学の入試でも課せられる楽典は、ただ音楽理論のためだけでなく、演奏や鑑賞のためにも基礎的な知識です。
楽譜を用いる文化
そもそも、楽譜を用いるということは、世界中すべての音楽文化にみられる普遍的なことではありません。
多くの民族では音楽は口承によって伝えられていますし、何かしらの楽譜を使うとしても、私たちの知っているような「五線譜」を用いるとは限りません。
私たちがこれから学ぼうとしている和声法や対位法は、ヨーロッパのある特定の時代の音楽理論です。それと同じように、私たちが知っているような楽譜の形も、ある特定の文化のものなのです。
また、西洋の音楽文化にとって、楽譜を書き残すということは重大な意味を結果的にもたらしました。つまり、楽譜を書き残したために彼らはいわゆる「芸術音楽」を創り出すことができたのです。
それは、楽譜があったために、より複雑な音楽を創作することが可能になったということもありますが、それ以上に、楽譜があったために、自分自身が書き残した音楽を、後から修正や改訂することができるようになったということが、より重要なことなのでしょう。
実はこの点こそ、西洋の芸術音楽の根底を支えるものの一つなのです。
ト音記号とヘ音記号
さて、まずは音譜を読む練習からしていきましょう。「ドレミファソラシ」の音符の場所のおさらいです。
譜例1
最初のドの音は、ピアノでいうところの真ん中のドの音になります。ところで、この譜例ではト音記号と呼ばれる記号が使われています。
また、記号にはヘ音記号と呼ばれるものもあります。
このト音記号とヘ音記号の違いは、その記号が高い音域を指しているのか、もしくは低い音域を指しているのかの違いです。先ほど紹介したように、真ん中のドの音は、ト音記号の五線譜上で書くとこのようになります。
譜例2
このト音記号を使っている五線譜では、真ん中のドより高い音を書くのはとても便利ですが、真ん中のドより低い音を書くのには少し不便です。試しに書いてみると、次のようになります。
譜例3
このように線が増えてしまい、とても読みにくいので、低い音域の音を書きたい場合は、ヘ音記号を用います。ヘ音記号では、次の音が真ん中のドを示します。
ト音記号で書かれた譜例3を、ヘ音記号に書き換えると次のようになります。
譜例5
両方とも違う楽譜のように見えますが、全く同じ音が書かれているのです。このように、高い音域の場合はト音記号を、低い音域の場合はヘ音記号を用いましょう。
ところで、このト音記号とヘ音記号は、音楽理論では「ソプラノ記号(ト音記号)」と「バス記号(ヘ音記号)」と呼ぶことが多いです。そのため、この連載でもソプラノ記号、バス記号と呼びたいと思います。
また他に、アルト記号と呼ばれるものもあります。
このアルト記号では、真ん中のドの位置は次の通りです。
譜例6
より高度な和声法や対位法では、アルト記号を用いることもありますので、今のうちに知っておきましょう。
それでは、バス記号の低い位置からソプラノ記号の高い位置まで、音符を並べてみましょう。それぞれの音の名前は次の通りです。頑張って覚えましょう。
譜例7
覚えるためには、楽譜をたくさん読んでみることが良い練習になります。練習問題を出しますので、音の名前を括弧の中に記入しましょう。
練習問題
答え:(1)ミ (2)ド (3)ソ (4)ファ (5)シ (6)ミ (7)ソ (8)ファ (9)レ (10)ド (11)ラ (12)ミ (13)レ (14)シ (15)ファ (16)ソ (17)ファ (18)ミ (19)ファ (20)ミ (21)ド (22)ラ (23)シ (24)ラ
シャープやフラットのいろいろなルール
続いて、シャープやフラットについておさらいしましょう。
音が半音上がったり下がったりするときには、シャープやフラットがその音符に付けられます(「半音」については別の回で解説します)。シャープもフラットも、それが付けられる音の左隣に書きます。
譜例8
こういったシャープやフラットのことを「変化記号」と呼びます。変化記号には、他にダブルシャープとダブルフラット、ナチュラルがあります。
ダブルシャープは、音が半音2つ分上がるときに用いられる記号で、ダブルフラットは、音が半音2つ分下がるときに用いられる記号だと覚えていてください。
ナチュラルは、変化記号の付いた音を元の音に戻すためのものです。たとえば次の譜例を見てみましょう。
譜例9
1番目の音はソの音で、2番目の音はソ・シャープ、そして3番目の音は再びソの音になります。この3番目の音に付いている記号がナチュラルです。たとえば次の譜例ではどうでしょうか。
譜例10
この譜例の1番目の音はラ、2番目の音はラ・フラット、3番目もラ・フラット、4番目はラ・シャープ、そして最後は元のラになります。
この2番目と3番目の音のように、ナチュラルやその他の記号を付けなければ、そのフラットの効果は続くことになります。
ところで、変化記号の効果があるのは1小節間だけで、しかも1つのパートのみになります。ここでいう「小節」とは、楽譜の区切りのようなもののことです。次の例を見てみましょう。
譜例11
この譜例上の縦に引かれた線が小節線と呼ばれるもので、その小節線は五線譜上の小節の区切りを示すためのものです。1つの小節のことを1小節と呼び、譜例11では4小節あることになります。
また、1つのパートの中でのみ効果があるので、たとえばフルートのパートに現れたシャープが、オーボエのパートに効果を及ぼすということはありません。
それでは、次の譜例を見てみましょう。
譜例12
この譜例の場合、2小節目のドの音は1小節目ではシャープになっているのにもかかわらず、元通りの音になっています。先に述べたように、小節が変わると、前に付いていた記号の効果は全てなくなるためです。
しかし例外もあります。それは、音をつなげる「タイ」という記号を用いる場合です。次の例を見てみましょう。
譜例13
この例では、レとレの音が線でつながっています。この線がタイです。
リズムについての細かい解説は別の回で行いますが、この1小節目のレは4拍分伸ばし、2小節目のレは2拍分伸ばします。しかしその2つの音はタイでつながっているので、結果的に6拍分の音を伸ばすことになるのです。
さて、タイは音の長さだけでなく、変化記号の効果も伸ばすことになります。
次の譜例では、小節が変わっても音はレ・フラットのままとなります。タイでつながっているからです。しかし、2小節目のタイでつながっていないレの音は元通りのレになります。
譜例14
また、変化記号は高さの異なる同じ音には効果を及ぼしません。次の譜例を見ましょう。
譜例15
この譜例では、2つの音は、高さは異なりますが同じミの音です。1番目のミの音のみにフラットを付けてみます。
譜例16
1番目のミの音にフラットを付けても、その次の高いミの音にはフラットの効果は及びません。このように、変化記号の効果が及ぶのは同じ高さ同士の、しかも1小節内で1つのパート内の音のみに限られます。
最後に課題を出しますので、楽譜を読んで音の名前を書き込んでみましょう。この課題の答えは、次回の記事の中で出されます。
課題1
まとめ
今回は①ソプラノ記号とバス記号について、②変化記号の種類について、そして③変化記号の効果の及ぼす範囲について学びました。今回の内容は、楽典の中でも最も重要な項目なので、しっかりと覚えるようにしましょう。
次回の記事では音程について取り上げます。