

対位法の規則とは
対位法の学習の際には定旋律を使用します。定旋律はラテン語のカントゥス・フィルムスの日本語訳で、カントゥス・フィルムスはその頭文字を取って、「C.F.」と記されることもあります。対位法の初期の段階では、次のように定旋律のそれぞれの音に一音ずつ付ける「1:1」の学習から始まります。
譜例1

まずは対位法の基本的な規則について紹介したいと思います。対旋律の開始の音(1小節目の音)は、主音かその5度上の音、つまり第5音を使用することができますが、定旋律の下に対旋律を付ける場合は、第5音から対旋律を始めることはできません。もし定旋律が主音から始まる場合、その対旋律が第5音から始まると次のようになります。
譜例2

和声法の内容になるので詳細については別の機会に解説しますが、この音程は属和音を連想させるものなのです。音楽の開始は主和音を連想させるものから始まることが基本的です。なので、現時点で対旋律が定旋律の下に置かれる場合は、主音から開始するようにしましょう。
そして定旋律と対旋律の音程は、長・短3度、長・短6度、完全5度、完全8度のみが認められます。なので次のような対旋律を付けることはできません。
譜例3

この例では、①の音程が短2度になっていますし、②の音程は減5度になっています。そのため、対位法的には良くないということになります。
旋法のいろいろな終止法
曲の最後の小節を「終止小節」といいますが、その終止小節の一つ前の小節、つまり最後から2小節目の小節では、定旋律と対旋律の音程は短3度か長6度となります。終止の直前で音階の第7音と主音との音程関係は半音となります。つまり第7音は「導音」である必要があり、そうなることで主音に解決できるのです。
リディア旋法やイオニア旋法の場合は、第7音と主音の音程関係は自然と短2度であるため、そのままの形で導音となります。
譜例4

ドリア旋法やミクソリディア旋法、エオリア旋法の場合は第7音と主音との音程関係は長2度であるため、次のように変化記号(シャープ)を用いて半音上げ、導音としなければいけません。
譜例5

しかしフリギア旋法の場合は次のようになります。
譜例6

フリギア旋法で第7音はdになります。そして、このdとフリギア旋法の主音であるeとの音程関係は長2度であるため、dは半音上がりdisになりそうなところですが、そうとはならないのです。仮にdisになると、終止の直前の小節では短3度か長6度であるべきなので、次のようにfisが現れます(fのままだとそれぞれ減3度、増6度となってしまいます)。
譜例7

教本によって様々なのですが、ここでは第7音とbの音のみに変化記号を用いることにしたいと思います。極論を言えば、クラシック音楽の歴史とは、変化記号が次第に多く用いられるようになっていった歴史であると言えます。このような変化記号を多く用いるためには、とても複雑で高度な和声法の知識が必要になるのです。
しかしながら。ここでのテーマは対位法です。なので、変化記号を多く用いて和声法的に複雑にするよりは、変化記号の数を制限して、ここではあくまで対位法を学ぶということに重きを置きましょう。
ところで、今回は詳しくは解説しませんが、bのみは例外的に用いることができることにします。
さて、大きく話題が逸れましたが、フリギア旋法の場合、先ほどの理由からdをdisとすることはできません。なのでフリギア旋法の終止形は次のようになり、変化記号は含まれないのです。
譜例8

フリギア旋法では第7音と主音との音程関係は長2度となりますが、第2音と主音との音程関係は短2度となります。つまりこの旋法では第7音ではなく、第2音が導音の役割を担っていると言えるのです。
そして終止の音は定旋律と同様に、対旋律も主音で終わります。また和声法と同じく連続5度や連続8度は禁止されます。
では、以上の規則を覚えるために練習問題を解いてみましょう。次の譜例の中から規則から外れている部分を見つけて、その理由を述べてみましょう。上の譜表が定旋律で、下が対旋律です。
練習問題

答え:
①対旋律が主音からではなく第5音から始まっている
③音程が減5度になっている
④前の小節と連続5度ができている
⑦前の小節と連続8度ができている
⑧終止小節の直前の小節だけど音程が長3度になっている
⑨対旋律が主音で終わっていない
作曲家たちの対位法の勉強の仕方
伝記などを読んでいると、過去の作曲家たちがどのように対位法に向き合ったか知ることができます。たとえば、かの有名なロシアの作曲家チャイコフスキーは、学生時代に対位法の課題として、一つ定旋律に対して12通りの対旋律を付けたそうです。
そして、これまたとても有名な作曲家であるシェーンベルクは、J.ケージに対位法を教える際に、一つの定旋律に対して複数の通りの対旋律を付けて、その中から最も良いと思えるものを選ぶようにとの課題を出したそうです。
12通りほどではなくとも、一つの定旋律に2~3通りの対旋律を付けてみるということは、対位法の学習にとって有効です。さらにシェーンベルクのように、複数の対旋律から最も良いものを一つだけ選び出すということも、対位法に対する感受性を身につけるためにはとても役に立ちます。
それでは、次は実際に対位法の課題を解いてみましょう。課題の旋律に対旋律を付けてみてください。これまでに何度も述べているように、理論にとって感覚はとても大事です。耳で聴いてみて良いと思えるものを書くことになによりも心がけましょう。自分自身のオリジナルな対旋律をつけてみましょう。
課題1

課題2

前回の課題の答えも記載します。
A上のイオニア旋法

B上のイオニア旋法

Des上のイオニア旋法

まとめ
今回は対位法の初期の学習として1:1に取り組みました。いくつかの規則を学びましたが、復習としてまとめてみると次のようになります。
①開始の音は主音か第5音。しかし対旋律が定旋律よりも低い位置に置かれ、定旋律が主音から始まる場合、対旋律の開始の音は主音のみになる。
②定旋律と対旋律の音程は、長・短3度、長・短6度、完全5度、完全8度のみ。
③終止小節の直前の小節で、定旋律と対旋律の音程関係は短3度か長6度になる。
④変化記号は第7音かbの音のみに用いることができる。
⑤終止小節では定旋律も対旋律も主音で終わる。
⑥連続5度や連続8度は避けること
規則が多いように思えますが、実は対位法全体の重要な規則は以上の6つのみです。つまりこの後の「1:2」や「1:4」でも基本的な規則は大きく変わらなく、先ほどの6つの規則を基本として、そこから派生するような形で少し増えていきます。
なので、先ほどの規則はとても重要なものとも言えます。今回でしっかり抑えて、これから少しずつ複雑になっていく対位法もちゃんと身につけることができるように頑張りましょう。
