【はじめての対位法】02.教会から始まった対位法の歴史を歩んでみる

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目次

ポリフォニーのはじまり

現在私たちが習う和声法はおおよそ18世紀に確立したものですが、対位法はそれよりも古く、16世紀頃にほとんど完成しました。

もちろんその完成に至るまでには長い歴史があり、その起源は10世紀頃まで遡ることができます。今回はまず、対位法の起源とはどのようなものだったのか探ってみましょう。

初期の対位法において重要な役割を果たしたものが「グレゴリオ聖歌」です。グレゴリオ聖歌とはキリスト教(主にカトリック)の教会で歌われた音楽で、ア・カペラで柔軟性のある自由なリズム、そしてメロディは順次進行が中心でモノフォニーであり、教会旋法からできているということが特徴です。

ところでこの「モノフォニー」とはなんでしょうか? モノフォニーとは単旋律という意味で、「一つの、単一の」を意味するモノと「音」を意味するフォニーから成っています。クラシック音楽の起源ではこのモノフォニー、つまり単旋律であるグレゴリオ聖歌が大きな存在であったのです。

グレゴリオ聖歌は教会の修道士たちによって歌われてきたのですが、ある時からそのグレゴリオ聖歌を主旋律として、対旋律が付けられるようになりました。その有名な例は次の譜例です。

譜例1

グレゴリオ聖歌 主旋律 対旋律 対位法 音楽理論

この譜例の①のパートが主旋律であるグレゴリオ聖歌で、②のパートが対旋律です。なぜこのような試みがなされたのか、それが宗教上の理由からなのか、もしくは単に好奇心からの試みなのか分かりませんが、この試みが後のマーラーやR.シュトラウスのオーケストラ作品に見られる複雑な対位法へと繋がる起源となりました。

ところで、このように一音に対して一音が付けられるようなものを対位法では「1対1」と呼びます。同じように、一音に対して二音付けられるものは「1対2」、四音付けられるものは「1対4」と呼ばれます。

さて、グレゴリオ聖歌はモノフォニーでありましたが、対旋律の付けられる対位法的な楽曲のことを「ポリフォニー」といいます。これは「複数の」を意味するポリがフォニーに付いたもので、複音楽と訳されたりもします。モノフォニーが2つ以上重なることによってポリフォニーとなるのです。

先ほど紹介した最初期のポリフォニーは「オルガヌム」と呼ばれます。このオルガヌムは12世紀になると次のようになります。

譜例2

オルガヌム ポリフォニー 主旋律 対旋律 対位法 音楽理論 メリスマティック サンマルシャル

これは「メリスマティック・オルガヌム」「サン・マルシャル・オルガヌム」と呼ばれます。最初期のオルガヌムに比べて、よりリズム的に自由になっています。そしてこの後には、中世のポリフォニーが現れます。中世のポリフォニーについては、次の機会で紹介します。

教会旋法の世界

対位法で用いられる旋律は、主に教会旋法でできています。Cdurやamollなどの調性による音階を用いる対位法の教本もありますが、旋法によるものがほとんどです(ちなみに、シェーンベルクが考案した十二音技法による対位法の教本も存在しています)。

教会旋法とは、8世紀から17世紀頃まで用いられていた音階であり、主に次の6つの旋法が使われてきました。

譜例3

教会旋法 ドリア フリギア リディア ミクソリディア エオリア イオニア 対位法 音楽理論

旋法名に付けられている「ドリア」や「フリギア」はギリシアの地名です。下記のように、「ドリア旋法」とは言わずに「第一旋法」と呼んだりもします。

・ドリア旋法=第一旋法
・フリギア旋法=第三旋法
・リディア旋法=第五旋法
・ミクソリディア旋法=第七旋法
・エオリア旋法=第九旋法
・イオニア旋法=第十一旋法

ロクリア旋法やヒポドリア旋法(第二旋法)、ヒポフリギア旋法(第四旋法)などもありますが、対位法の教本で用いられるものは以上の6つです。

そして、旋法にも主音があります。Cdurなどの音階と同様に、対位法で用いる旋法の主音も第1音となります。曲の終わりはこの主音で終わることが多いです。たとえば次の譜例を見てみましょう。これはどの旋法による楽曲でしょうか?

譜例4

フリギア旋法 教会旋法 グレゴリオ聖歌 対位法 音楽理論

この楽曲はグレゴリオ聖歌であり、Eで終わっているのでフリギア旋法で作られているといえます。

また、旋法は調性と同様に、その音階のキーを変えることができます。そのことを移高、もしくは移旋といいます。たとえばフリギア旋法はEから始まりますが、これをCから始めると次のようになります。

譜例5
Eから始まるフリギア旋法

フリギア旋法 移高 移旋 教会旋法 対位法 音楽理論

 ↓
Cから始まるフリギア旋法

フリギア旋法 移高 移旋 教会旋法 対位法 音楽理論

Eから始まるフリギア旋法(このような旋法のことを、「E上のフリギア旋法」と言ったりします)も、Cから始まるフリギア旋法(このような旋法は「C上のフリギア旋法」と言います)も、同じ音程関係で成り立っています。このように音程関係を調整することで、移高、移旋は可能になります。

先ほど紹介したフリギア旋法のグレゴリオ聖歌を、C上のフリギア旋法によるものに変えると次のようになります。

譜例6

グレゴリオ聖歌 フリギア旋法 移高 移旋 教会旋法 対位法 音楽理論

このような移高、移旋の技術は、カラオケでキーを上げたり下げたりするのと同じように、歌いやすさのために用いられました。さて、各旋法の音程関係は次のようになります。

移高 移旋 教会旋法 対位法 音楽理論 ドリア フリギア リディア ミクソリディア エオリア イオニア

最後に課題を2つ出します。まず例を参考にしながら、次の譜例を()の中に書かれている旋法に変えてみましょう。課題の譜例の旋法はF上のイオニア旋法です。

課題1

イオニア旋法 移高 移旋 教会旋法 対位法 音楽理論

例(C上のイオニア旋法)

イオニア旋法 移高 移旋 教会旋法 対位法 音楽理論

1(A上のイオニア旋法)
2(B上のイオニア旋法)
3(Des上のイオニア旋法)


課題1ができたら、2つ目の課題として、次は教会旋法で旋律を作ってみましょう。4小節程度で作ってみてください。これには答えはありません。自分自身で納得できるものを作ることが理想です。

まとめ

今回は、対位法の起源を紹介しました。対位法の起源にはグレゴリオ聖歌が大きな役割を果たしていて、聖歌に対旋律を付けることがポリフォニーの始まりでした。そしてグレゴリオ聖歌は教会旋法からできていて、対位法で用いる音階はこの教会旋法となります。

教会旋法には独特の響きがあります。その響きに20世紀の作曲家たち(たとえばドビュッシーなど)はインスピレーションを受け、創作に活かしたりしたのです。

皆さんも教会旋法独自の響きを味わいながら、対位法に取り組んでみましょう。

対位法の教本
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