「1:4」の対位法の不協和音の使い方
今回は「1:4」の対位法にチャレンジしましょう。「1:4」では1つの全音符に対して4つの四分音符が付けられます。「1:4」の場合、第1拍目と第3拍目は強拍で、第2拍目と第4拍目は弱拍とされます。
譜例1
「1:2」と同様に強拍では協和音程(完全1度、完全5度、完全8度、長・短3度、長・短6度)が置かれ、弱拍では協和音程と、条件付きで不協和音程を置くことができます。
弱拍に不協和音程が置かれる条件とは、弱拍の前後の拍(つまり弱拍である第2拍の前後の拍は第1拍と第3拍で、第4拍の前後の拍は第3拍とその次の小節の第1拍となります。)が協和音程であり、同じ方向に順次進行していることです。次の譜例のようになります。
譜例2
なので、次の場合は認められないことになります。なぜでしょうか?
譜例3
①の場合、第2拍の不協和音程へ、その前の拍(第1拍)のdの音からcの音へと順次進行で下行することで達しています。その場合、その次の第3拍目はさらに下行することで同じ方向に順次進行しなければいけません。しかしここでは同じ方向ではなく逆の方向、つまり上行することで第3拍に進んでいます。しかも順次進行ではなく跳躍進行になっています。
譜例4
たとえばこの例を次のように書き換えてみると正しくなります。
譜例5
②の場合、第2拍は不協和音程ではなく協和音程(完全5度)になっているのでここは問題ありません。しかし、弱拍である第4拍に不協和音程が置かれているので、この不協和音程を正しく処理しなければいけません。この場合、問題となる第4拍の前の拍に置かれたgの音から上行でaの音に進み、その次の拍(次の小節の第1拍)でcの音へ進んでいるので同じ方向に進んでいることにはなります。
しかしaとcの音程は短3度です。つまり順次進行ではなく跳躍進行になっています。
譜例6
ただこれを直してcではなくhの音に進んだ場合、次のように強拍に不協和音程を置いてしまうことになるため都合が良くありません。
譜例7
なのでいっそのこと3拍目の音から変えてしまって次のようにしましょう。
譜例8
これだと4拍目に不協和音程(短7度)が置かれていてもその前後が協和音程で、しかも同じ方向に順次進行で進んでいるため問題はクリアされます。
さて、③の場合ですが、ここでは2拍目に不協和音程が置かれています。この場合、その前後の拍に協和音程を置かなければいけません。第1拍は協和音程ですが、第3拍は不協和音程(減5度)になっています。
譜例9
この場合はどのように処理されるべきなのでしょうか?
まずここで新しい規則を紹介します。ある小節の第1拍からその次の小節の第1拍の間には5つの音が置かれることになります。
譜例10
その5つの音のうち、はじめと終わりの音(1番目と5番目の音)が協和音程になっていて、かつその5つの音が同じ方向に順次進行している場合、3拍目に不協和音程を置くことができます。
譜例11
なので先ほどの譜例の場合は次のように処理することで第3拍に不協和音程である減5度を置くことが可能です。
譜例12
ところで実は不協和音程は次のような扱い方でも使用可能です。
譜例13
これは音楽理論の用語で「刺繍音」と名付けられています。刺繍音とはこのようにある音が隣り合う音(2度上か下の音)に進行し、再び元に戻るものをいいます。
そして刺繍音は弱拍に置かれます。そのためにはこれまでの規則と同様にその前後の音は協和音程でなければいけません。また刺繍音はいわゆる①山型になることも②谷型になることもありえますが、ここでの対位法では谷型、つまりある音が順次下行して次の音に達し、再び元の音に戻る型のみ認められます。
譜例14
それでは練習問題として次の譜例を見てみましょう。この譜例の中には正しく処理されたものとそうではないものがあります。正しいものを選び出し、正しくないものがなぜ正しくないのか説明してみましょう。
練習問題
答え:
正しいものは③。
①は第3拍目が不協和音程になっているのにも関わらず、第1拍目からその次の小節の第1拍目にかけての5つの音が「同じ方向に」順次進行していなく、次の小節で「逆の方向に」順次進行している。
②は2番目の小節の第1拍目で「協和音程」になるべきところが、「不協和音程(減5度)」になっている。
「ゆったりと」終止するために
終止の1小節前は次の3種類のようなリズム形になることがベストです。
譜例15
このリズム形が用いられることには理由があります。たとえば次のような終止だとどのような印象を受けるでしょうか?
譜例16
なんとなくいきなり音楽が終わったような感じがしないでしょうか?それよりも先ほどあげたリズム形のうちの1つを終止の直前に置く方が徐々に音楽が終わっていくような印象を受けます。
譜例17
音楽にもいろいろな音楽があります。もちろん急に終止するような音楽もあり、その音楽にも魅力があります。しかしこの対位法の音楽においては急に終止するのではなく、徐々にゆっくりと終止していく方が良いと覚えておきましょう。
それでは今回も課題に取り組みましょう。次の旋律を定旋律として「1:4」の対旋律を付けてみましょう。
課題
前回の解答例は次の通りです。
「1:1」(定旋律は対旋律の下)
「1:2」(定旋律は対旋律の上)
まとめ
今回は「1:4」の対位法に取り組みました。「1:2」と同様に条件付きで不協和音程を弱拍で用いることができました。その条件とは次のようなものでした。
・不協和音程を用いる拍が、前の拍から順次進行で進むことで達していて、さらにその同じ方向に順次進行していること。
しかし弱拍に限らずに、次のような場合は強拍である第3拍目にも不協和音程を用いることができます。
・ある小節の1拍目からその次の小節の1拍目までの5つの音が同じ方向に順次進行している時にその5つの音の中心に位置する音、つまり第3拍目の音に不協和音程を用いることができる。
また、次のような谷型の音型になる場合も弱拍で不協和音程を用いることができました。そしてこれを刺繍音と呼びました。
譜例18
終止が徐々にゆったりと行われるために終止の直前に置かれるリズム形もありました。
音が増えることで、より自由に、より音楽的になっていきます。復習をしながら新しいルールに馴染んでいきましょう。