自由対位法の特別ルール
前回の記事で自由対位法のリズムについて学びました。今回は、自由対位法の新しいルールについて紹介して、実際に課題に取り組んでみましょう。
まず、自由対位法では同じ音を反復すること(このことを「同音反復」といいます)が禁じられます。
譜例1
しかし、自由対位法の中には同音反復が特別に認められる例があります。まず、次の譜例を見てください。
譜例2
①のシンコペーションがかかった音は、不協和音程を作っています。それが②の音で協和音程に解決されています。今まで習った通りのシンコペーションの使い方です。これを少しアレンジすることでm同音反復を用いることができます。注目するところは、譜例中の「☆」マークのある拍です。
譜例3
①と②の音の間(つまり2拍目)に☆が付いています。①の音を2分音符から4分音符に変えて、☆の部分に②と同じ音の4分音符を置くことが可能です。つまり、シンコペーションのかかった不協和音程①とその不協和音程を解決する協和音程②の間に、①と同じ音が挟まることで同音反復ができるわけです。なので次のようなものは全て可能です。
譜例4
また、先ほどの譜例1も次のように直すことができます。
譜例5
もう1つ、自由対位法で特別に認められるものがあります。次の譜例を見てみましょう。
譜例6
今までのシンコペーションの規則では、この譜例中の①の音は③の音へ順次下行しそうですが、譜例6ではシンコペーションのかかる音の次の音②が協和音程になってはいるものの、本来解決される音にはなっていません。ポイントは③の音です。③の音は、これまでのシンコペーションについての規則によれば、①の音から解決する音です。
譜例7
つまり譜例6の場合だと、①と③の間に②の音が入っていることになります。実は、このようなシンコペーションの用い方も可能になります。シンコペーションのかかった①の音は跳躍進行して協和音程を作る②の音に進んだ後、本来①の音が進むべき③の音へ進みます。
この特別規則によると、次のようなものも認められます。
譜例8
以上の2つの特別ルールによると、次のような場合は認められないことになります。
譜例9
まず1は対旋律に、特別ルールによらない同音反復があります。試しに直してみると次のようになります。
譜例10
2の場合は、シンコペーションのかかった①の音がその次の音②を経由して、③の音で解決されていますが、②の音程が不協和音程になっています。ここは協和音程でなければいけませんので、正しくは次のようになります。
譜例11
3は①の音が跳躍進行して協和音程②に達し、その次の③の音に進んでいます。しかしここは本来①が解決すべき音(cの音)ではなくhの音になっています。これも正しくありません。正しくするためには次のように③は、①が解決される音にしましょう。
譜例12
自由対位法の例を見てみる
さて、そろそろ自由対位法に取り組みたいところですが、自由対位法とは文字通りに「自由」です。自由であるということは意外と難しいものなので、まず先に自由対位法の譜例をいくつか挙げ、その解説の後に、実際の対位法にチャレンジしましょう。次の自由対位法の譜例を見てみましょう。
譜例13
まず、ポイントとなるところは①の部分です。ここでは3小節目3拍目から次の小節へシンコペーションがかかっています。そして、シンコペーションのかかる4小節目の2拍目と3拍目で同音反復がされています。このような同音反復は、特別に認められるものでした。
次に②に着目しましょう。この小節では短い音符(4分音符)から始まっていますが、このようなリズムは基本的には認められないものでした。しかし、ここではその前の小節(4小節目)の3~4拍目に4分音符が置かれているため、5小節目を4分音符から始めても問題ないわけです。
③は、前の小節からシンコペーションがかかっています。このようにシンコペーションのかかった拍が、不協和音程ではなく協和音程であればそれは好きな方向へ進行できます。これがもし不協和音程であれば順次進行することによって協和音程に解決する必要がありました。
④は②と同じように、前の小節の後半に4分音符があるため、4分音符から小節を始めることができますが、⑤はそのようにはなっていません。実はこれも特別ルールとして、「4分音符が2つ続いた後に2分音符でシンコペーションされる場合」、認められるものでした。
⑥も今回の記事で学んだことです。ここでは1拍目にシンコペーションがかかっていて、さらに不協和音程になっていますが、すぐに解決せずに別の協和音程に進んでいます。これは自由対位法の特別ルールとして認められるものでした。
それでは、これまでに学んだことを元に課題にチャレンジしましょう。次の定旋律に自由対位法の対旋律を付けてみましょう。
課題
前回の解答例は次の通りです。
前回課題解答例1
前回課題解答例2
「1:1」
「1:2」
「1:4」
まとめ
自由対位法は「1:1」から「1:4」までの規則とシンコペーション、自由対位法の特別ルールを全て使うことででき、これまでの対位法の総集編のようなものです。ルールをまとめてみると次のようになります。
○基本的な規則について
・「1:2」では3~4拍目が、「1:4」では2拍目と4拍目が弱拍とされる
○音程について
・開始の音は定旋律から完全1度、完全8度、もしくは(対旋律が定旋律の上に置かれる場合は)完全5度離れていること
・終止の音は必ず主音
・終止直前の音程は短3度か長6度
・基本的に旋法の第7音は導音になるが、フリギア旋法は例外
・基本的に用いられるのは協和音程であること
・ある小節の強拍①からその次の弱拍②、さらに次の小節の強拍③へと順次進行で同じ方向に進む場合、弱拍②で不協和音程を使用できる
・「1:4」である小節の1拍目から次の小節の1拍目にかけての5つの音が同じ方向に順次進行する場合は、その3つ目の音(つまり3拍目の音)を不協和音程にすることができる
・「1:4」では弱拍に刺繍音を用いることができる
○シンコペーションについて
・シンコペーションはそれがかかる音が、
①協和音程であれば、その後にどの方向へも進行できる
②不協和音程であれば、その次の音で協和音程に順次進行することで解決される必要がある
・自由対位法では、シンコペーションのかかる音①が、本来解決すべき音③に直接進まずに、別の協和音程を成す音②を経由して、③に解決することができる
○リズムについて
・小節内のリズムは、長い音符(2分音符や付点2分音符)から始まっている場合、その音よりも短い音(たとえば4分音符など)を小節の後半で使うことができる。
・前の小節の後半に短い音符が置かれていれば、短い音符で小節を始めることが可能。
・8分音符は弱拍で順次進行の場合に使用可能
その他
・同音反復は認められないが、自由対位法でシンコペーションのかかる音①とその音を解決する音③との間に③と同じ音②をはさむことで同音反復は可能
これで二声の対位法はおしまいです。次からは三声の対位法に取り組みます。実は三声の対位法も、二声対位法の規則がほぼ適用されます。これまでの内容をしっかり復習して、三声対位法にチャレンジしましょう。