【はじめての対位法】11.対位法における和声感覚の大切さ

対位法の理解に役立つ「楽典」のおさらいはこちら

はじめての対位法 前回の記事はこちら

中世の作品に見る価値観のズレ

前回の記事から三声の対位法に取り組んでいます。三声対位法では音程に関して、「低音との関係」が守られるべきで、ソプラノとアルトの関係は問題とはされないことになっていました。だけどこの規則では次のような例も書くことができることになります。

譜例1

ソプラノ アルト 音程 対位法 音楽理論

この譜例のソプラノと低音、アルトと低音の音程はそれぞれ短6度と完全5度になっています。そのため三声対位法の規則的には認められるのですが、ソプラノとアルトの音程が短2度となっているところが気になります。この音程の響きはとても鋭い印象を与えますね。

通常、私たちは音楽を聴いているときに「和声」を感じます。たとえば次のような譜例では①から③までの声部のそれぞれの音が同時に鳴っているとき、一つのまとまりであるかのように聞こえるのです。

譜例2

和声 ソプラノ アルト 音程 対位法 音楽理論

しかし中世の音楽の場合は少し事情が異なります。中世の音楽では先ほどの譜例2は、①から③までの声部が必ずしも一つのきれいなまとまりとして聞こえる必要がなかったのです。あくまでも低音との音程関係のみが整っているかどうかということが気を付けられていました。そのため不協和音程が生じるのです。実際に中世の音楽の譜例を見てみましょう。

譜例3

アルス・アンティクア ペロタン 不協和音程 対位法 音楽理論

この譜例はアルス・アンティクアの作曲家であるペロタンの作品の一部です。☆マークが付いているところは不協和音程になっていて、現代の私たちからすると少し違和感を感じるのではないでしょうか。このような不協和音程から、この時代の対位法の作品の中には同時に起こる響きを一つのまとまりとして聴き取る和声の感覚がまだなかったのではと推測できるわけです。

もちろんペロタンにしてもマショーにしても、楽曲の中で和音のように響くものが現れることはよくあります。しかしこれは「定旋律(だけ)との音程に気を付けよう!」という考えから結果的に生じた和音であり、私たちが普段考えるように「全ての声部がきれいにまとまるように書こう!」という考えから生じる和音ではないわけです。それは中世の作曲家たちの価値観と私たちの価値観とのズレでもあり、フランスの作曲家のオリヴィエ・アランが述べているように、この時代の作曲家の作品をバッハやムソルグスキーの作品を聴くように聴いてはいけないのです。

「美しい」ルネサンスの音の響き

私たちの感覚に近い「和音」の考えが生まれたのは15世紀以降、いわゆるルネサンスの時代であると言われています。音程関係というある意味で算数のような音の操作を行っていた中世の時代から、音楽から「美しさ」を感じ始めたルネサンスの時代に入ることで、より私たちの感覚に近い音楽になったのです。

さて、そんなルネサンス時代の有名な作曲家と言えばパレストリーナです。この名前は対位法を勉強していると頻繁に見聞きするものです。パレストリーナのどこがすごいのかと言いますと、この作曲家はこれまでの対位法を洗練させたといわれるところです。たとえば次の例はパレストリーナの作品の一部です。ペロタンの楽曲に比べると聴いていてよりきれいに感じるのではないでしょうか。

譜例4

パレストリーナ ルネサンス 和声 対位法 音楽理論

対位法の教本などでよく目にする「パレストリーナ様式」とはごく簡単に述べますと「パレストリーナの対位法」といった意味で、それを学ぶことを目標としています。パレストリーナは彼が亡くなった直後から神格化され「音楽の君主」と呼ばれました。またその作品は「絶対的な完成」を顕すものとされ、後世の作曲家たちに大きな影響を与えました。そんなパレストリーナの代表的な作品は「教皇マルチェッルスのミサ曲」です。

ちなみにパレストリーナの同時代の作曲家としてジェズアルドという作曲家もいます。彼の作品は現代の感覚からしても特異な印象を与えます。パレストリーナの作品もジェズアルドの作品もぜひ聴いてみましょう。

三声対位法に親しむためのステップ

さて、今回は三声対位法の少し特殊な練習問題に取り組んでみましょう。次の譜例をみてみましょう。

譜例5

ソプラノ アルト テノール 対位法 音楽理論

この譜例にはアルトの音のみ記譜されています。この音に基づいて低音(テノール)とソプラノを付けてみましょう。前回は低音に基づいてソプラノとアルトの音を付けましたが今回はアルトに基づいて作るというわけです。

まず行うべきことは、低音の音を付けることです。低音が決まるとソプラノも決めやすくなります。低音との音程関係は完全5度、完全8度、長・短3度、そして長・短6度が認められました。これらの音程であればなんでも大丈夫なのですが、ここでは仮に3度下の音であるdの音を低音として付けてみましょう。

譜例6

ソプラノ アルト テノール 対位法 音楽理論

低音が決まったら今度はそれに基づいてソプラノの音を考えます。たとえば6度上のhの音を付けてみましょう。

譜例7

ソプラノ アルト テノール 対位法 音楽理論

これで完成です。ソプラノとアルトの間の音程が不協和音程である増4度となっていますが、低音を含まないソプラノとアルトの間の不協和音程は問題にされないのでした。

それでは同じように次の練習問題の①、②、③に取り組んでみましょう。もちろん解答は複数考えることができます。より良いと思えるものを作ってみましょう。

練習問題

ソプラノ アルト テノール 対位法 音楽理論

解答例(それぞれ3パターンの解答例を挙げます。)

ソプラノ アルト テノール 対位法 音楽理論
ソプラノ アルト テノール 対位法 音楽理論
ソプラノ アルト テノール 対位法 音楽理論

今回も課題を挙げます。この課題の低音を元に三声対位法を作ってみましょう。

課題

ソプラノ アルト テノール 対位法 音楽理論

前回の課題の解答例は次の通りです。

前回課題解答例

定旋律 対旋律 1:1 協和音程 不協和音程 ソプラノ アルト テノール 音程 対位法 音楽理論

まとめ

今回は、ルネサンスの対位法が中世に比べて、より私たちの感覚に近い音楽であったと説明しました。ルネサンスの有名な作曲家であるパレストリーナは、この後の時代の様々な作曲家の対位法に大きな影響を与えました。パレストリーナを研究することによって、対位法を修得することも可能なのです。

ところで、三声対位法の規則として定められているものではないのですが、私たちが対位法の課題を解いたり作品を作るときにも、全ての声部を一つのまとまりとして聴き取る和声の感覚は重要です。というのも私たちが対位法などの音楽理論を学ぶ目的の一つは、それを作曲に生かすためであります。そうなりますと、対位法のルールである低音との音程関係を守りつつ、きれいな和声を作るという和声法の感覚も合わせることが大事になるのです。

その意味でもパレストリーナの作品はとても良い参考になります。ぜひその作品を聴いたり研究してみたりして、自分自身の創作に生かすことのできるものを吸収しましょう。