はじめに
前回の記事では準固有和音について簡単に紹介しました。準固有和音とは、ある長調の中で用いることができる和音のことで、それはその調の同主短調から借りてくるものでした。準固有和音が同主短調から一時的に借りてきた和音であるということはわかったのですが、それはどのように用いられるのでしょうか? 用いる際にそのルールはあるのでしょうか? 今回は準固有和音の実際の用い方について学んでみましょう。
準固有和音の表示の仕方
準固有和音を用いるためにはどのような規則があるのでしょうか? まず、準固有和音は和音記号の左隣に「○」を付けて表示されます。たとえばCdurのIVの準固有和音は「。IV」と記されます。そしてある調の中で用いられる準固有和音は、。II、。II7、。IV、。V9、。V9、。VIの6種類とそれぞれの転回形です。たとえばFdurの準固有和音は次の通りです。
譜例1
試しにFdurの同主短調の和音を並べてみると、次のようになります。比べてみると、Fdurの準固有和音とそれに対応するfmollの和音が全く同じであることが分かります。
譜例2
ここでさっそく練習問題に取り組んでみましょう。例を参考にしながら、それぞれの和音記号が示している和音を書いてみましょう。
例
Ddur:。II
解説:Ddurの同主短調はdmoll。そしてそのIIは次のようになる。
よって、Ddurの。IIは次のようになる。
例の解答
練習問題
①Gdur:。IV
②Asdur:。V91
③Cdur:。VI
練習問題の解答
①
②
③
準固有和音を用いるために気を付けること
準固有和音の表し方について知ったところで、その使い方について学びましょう。まず準固有和音のその元になる和音のことを「対応固有和音」と言います。たとえば。IIの対応固有和音はIIで、。IVの対応固有和音はIVです。
譜例3
準固有和音は、その対応固有和音と同じ機能を持ちます。なので。II1はII1と同じくサブドミナンテですし、。VIはVIと同じくトニカです。つまり、準固有和音はそれぞれに対応する固有和音と同じように使うことができるわけです。
そして、準固有和音はその対応固有和音の代わりとして用いることができます。たとえば、I→II1→V7→Iという進行があるとします。
譜例4
このII1を準固有和音に変えて、次のようにすることも可能です。
譜例5
また、たとえばFdurのI→IV1→。II72→Vという進行があるとしましょう。このIV1→。II72の進行では、IV1に含まれるdと。II72に含まれるdesが半音の関係になっています。
譜例6
このように半音の関係にある2つの音は、同じ声部で増1度進行するように用いられなければいけません。
なので、譜例7の①のような場合は認められません。なぜなら1小節目の和音(IV1)のバスに置かれているeの音は、2小節目の和音のバスでesになることで、同じ声部で増1度進行することになりますが、譜例では2小節目のバスはesにならず、その代わりにソプラノがesになっているためです。このように半音の関係にある2つの音が、それぞれ異なる声部に置かれていることを「対斜」といいます。対斜は避けるようにしましょう。譜例7の①を②のように直すと認められることになります。
譜例7
しかし、V9の準固有和音へと連結する際に生じる対斜は例外的に認められます。
譜例8
また次の譜例の場合だと、1小節目のバスと2小節目のソプラノで対斜が生じているように見えますが、1小節目のソプラノと2小節目のソプラノが増1度関係で連結されているため、問題とされません。つまり、1つの声部だけでも増1度進行で結ばれていれば対斜ではないわけです。
譜例9
準固有和音に関するルールは以上です。基本的に対斜が起こらないように気を付ければ自由に使うことができます。
今回習ったことを踏まえながら課題に取り組んでみましょう。今回の課題はバス課題とソプラノ課題です。バス課題はDdurでソプラノ課題はCdurになっています。
課題1-1
課題1-2
前回の課題の解答例は次の通りです。
前回課題解答例
転調をするときに重要な役割を持つものとは?
CdurにとってGdurとは属調と呼ばれるものでした。FdurはCdurにとって下属調と呼ばれます。別の見方をすると、CdurはGdurにとって下属調となります。そしてたとえばCdurのVの和音は属調であるGdurにとってはIの和音であります。それではGdurのVの和音はCdurにとってどのような和音なのでしょうか?
譜例10
譜例を見ると気がつくかも知れませんが、GdurのVはCdurの音階には存在しない和音です。なぜならCdurの音階はc、d、e、「f」、g、a、hとなっていて、GdurのVの和音に含まれる「fis」を持っていないためです。
譜例11
このようにある調には含まれていても、また別の調には含まれていない音は転調を行う際に重要になります。その意味では、準固有和音も転調に際して重要な役割を担うことができます。たとえば、Gdurからその同主短調であるgmollに転調するのなら、次のように準固有和音を生かすことで転調できそうです。
譜例12
このように、他の調には含まれていなくても、ある調には含まれている、その調に特有の音(便宜的にここでは「特有音」と名付けてみます)を用いると転調が簡単にできます。特有音を用いる1つの例が今回学んだ準固有和音でありますが、次回以降に学ぶ「ドッペル・ドミナンテ」も、特有音を生かした転調に用いることができる和音の1つです。この和音については次回以降に学びましょう。
まとめ
今回は準固有和音について、例を用いながらその使い方について学びました。長調の中で準固有和音に対応する和音、つまり対応固有和音は準固有和音に置き換えることが可能です。しかしその時に注意を要することは「対斜」が起こらないようにするということでした。とはいってもこの対斜のルールにも例外があって、「V9の根音省略形との間に生じる対斜は認められる」というものがありました。対斜に気を付ければ基本的に自由に準固有和音を用いることができます。
また、ある調に特有の音は転調をする際に重要な役割を持つということを紹介しました。準固有和音も特有音を生かした和音の一種であります。このような特有音を用いた例としてドッペル・ドミナンテもあり、このドッペル・ドミナンテを用いると、主調から属調への転調がやりやすくなります。
この特有音をマスターできれば様々な調に転調することができるようになります。用いることができる和音を次第に増やしていきましょう。