「1:2」について振り返ってみる
今回は3声対位法の「1:2」にチャレンジしてみましょう。3声の「1:2」でも、これまでに習った2声対位法の「1:2」の知識が基礎になります。ところで、2声対位法のルールを覚えているでしょうか? 簡単に復習してみましょう。「1:2」のルールは次の通りでした。
・協和音程は強拍と弱拍のどちらにも置くことができるが、不協和音程は弱拍に条件付きで置くことができる。
・弱拍に不協和音を置く条件とは、ある小節Aの強拍から順次進行で弱拍に移り、その進行と同じ方向に順次進行することでその次の小節Bの強拍に移ること。その条件を満たすことができれば、小節Aの弱拍に不協和音を置くことができる。よって次の例は全て可。
譜例1
3声の対位法でも以上のルールを守ればOKです。それではこの「1:2」のルールを3声対位法に当てはめるとどのようになるのでしょうか? まず3声対位法の「1:2」の例を挙げてみます。譜例に書かれている「C.F.」は定旋律を表します。
譜例2
この例を見てみると3つの声部のうち、1つの声部(低音)には定旋律が置かれ、他の2つの声部は対旋律となっています。そして2つの対旋律のうち、一方の声部(ソプラノ)は「1:2」、つまり二分音符で作られていて、もう一方の声部(アルト)は「1:1」で作られています。つまり「1:2」になる声部は1つの声部だけとなります。
ところで、この例では定旋律が低音(テノール)に置かれていますが、2声対位法と同じように定旋律はアルトにもソプラノにも置くことができます。
譜例3
そしてさらに2つある対旋律のうち、「1:2」になっている声部は必ずしもソプラノに置かれるというわけではありません。アルトにも置くことができますし、低音にも置くことができます。
譜例4
ということは3声で、定旋律や「1:2」になる旋律が置かれるパートの組み合わせは6通りあるということです。まず「1:2」のパートをソプラノに置くパターンに作り方を学んでみましょう。
ソプラノに「1:2」を置いてみる
3声の対位法において、まず注意すべきことは低音との音程です。前回までに学んだように、3声対位法ではソプラノとアルトのパートはそれぞれが低音との音程を規則通りになるようにしなければいけませんでした。それはつまり、ソプラノとアルトとの間の音程は問題とされないということでもあります。
低音が基準となるわけですから、先にこのパートが決まっている必要があります。最初から定旋律が低音に置かれている場合は問題ないのですが、定旋律がアルトに置かれている場合は先に低音を考える必要があります。たとえば次の例を見てください。
譜例5
この例では、アルトのパートに定旋律が付いています。この定旋律に合わせて低音を考えてみましょう。まず、この例はeの音から始まりeの音で終わっているので、フリギア旋法であることがわかります。そして3声対位法において、最初の小節ではソプラノとアルトの音は低音から完全1度、完全8度、そして完全5度上の音である必要がありました。ここではアルトがすでに定まっていますのでアルトを元に低音を考えてみると、規則上①の低音に考えられるのはeの音かaの音です。
譜例6
しかしaの音だとフリギア旋法ではなく、エオリア旋法のようになってしまいます。aの音から始まる旋法はエオリア旋法だからです。
譜例7
実は音楽全体の雰囲気を決めるのはソプラノではなく、低音(ここではテノール)です。その中でも始まりと終わりの小節の低音はとても重要です。この2つの低音は、その調や旋法の主音になることが基本。そうすることでこの曲がフリギア旋法の曲なのか、エオリア旋法の曲なのかわかるのです。
ということで先ほどの譜例5の場合、①の低音はaではなくeである方が良さそうですね。終わりの小節も同じようにeにしましょう。これでこの曲がフリギア旋法で作られていることがわかります。
譜例8
もちろん低音を1オクターヴ下げて次のようにすることもできます。こちらの方が音域が広がって作りやすそうですね。
譜例9
さて、②から④の低音は定旋律を基準にして協和音を作る音を置いていきましょう。ここで注意すべきは②です。②はfの音になっていて、その5度下の音はhになりますがこれは減5度の音程です。
譜例10
減5度は協和音ではなく不協和音ですので②の低音にはhの音を置くことができません。
低音を試しに置いてみると次のようになります。もちろんいろいろなパターンが考えられるのでこれだけが唯一の低音ではありません。
譜例11
さて、次にいよいよ「1:2」になるパートを付けてみましょう。これは2声の「1:2」と同じ要領でやれば良いです。先ほど付けた低音に合わせて作ってみると次のようになります。
譜例12
②から③にかけて行われているように、シンコペーションを用いることも可能です。それでは練習問題として実際に3声対位法の「1:2」を作ってみましょう。次の2つの問題はそれぞれ低音とアルトに定旋律が置かれています。それに合わせて対旋律を作ってみましょう。ここではソプラノに「1:2」の部分ができるようにしてください。
練習問題1
練習問題2
練習問題1解答例
練習問題2解答例
アルトに「1:2」を置いてみると…
続いてアルトに「1:2」が置かれるパターンを考えてみましょう。まず次の譜例を見てください。
譜例13
ここではソプラノに定旋律が置かれていますので、それに合わせて先に低音を作る必要があります。まずこの定旋律はdの音から始まってdの音で終わっているのでドリア旋法であることがわかります。なので、先ほどと同じように始まりの①の低音と終わりの⑧の低音はともにdになります。
譜例14
そして②から⑦にかけても同じ要領で音を付けていきます。たとえば次のようにしてはどうでしょうか?
譜例15
この後は低音に合わせてアルトパートに「1:2」を付けていきます。
譜例16
ここではアルトの最後の音がfisになっています。ドリア旋法やフリギア旋法、エオリア旋法で最後に第3音が出る場合はこのように半音上げる習慣があると前に紹介しました。それをピカルディの3度と言います。
最後に今回の課題と前回課題の解答例を載せます。課題にはアルトに置かれた定旋律をもとに、ソプラノに「1:2」を付けてみましょう。
課題
前回課題解答例
まとめ
今回から3声対位法の「1:2」にチャレンジしています。3声の対位法も2声の対位法におけるルールと大きく変わることはありませんが、声部が1つ増える分、慣れるために練習が必要です。定旋律と「1:2」のパートの組み合わせは次のように全部で6パターンあります。
表(定旋律は「C.F.」で表し、対旋律はそれぞれ「1:2」と「1:1」で表しています)
この表のうち、今回は「1:2」のパートがソプラノとアルトに置かれる1から4のパターンを学びました。次回は低音に置かれる5から6のパターンについて学んでいきましょう。