ドッペルドミナンテを作る近道
前回の記事ではドッペルドミナンテについて取り上げ、属調の属和音をドッペルドミナンテとして使うことができると紹介しました。すでに気付いている人もいるかもしれませんが、このドッペルドミナンテは要するにIIの和音の第3音を半音上げることで作られます。たとえばCdurのIIの和音は「d-f-a」という和音ですが、この第3音である「f」を半音上げて「fis」にすることでCdurのVになるわけです。
譜例1
このようにドッペルドミナンテとは、「IIの和音の第3音が半音上がったもの」と覚えてしまった方がわかりやすいです。ただ短調の場合では少し注意が必要です。今回はまず短調のドッペルドミナンテに取り組んでみましょう。
短調のドッペルドミナンテの作り方
先ほど述べたように、IIの和音の第3音を半音上げて短調のドッペルドミナンテを作ってみます。
譜例2
この譜例はamollです。ドッペルドミナンテとは属調の属和音のことですから、amollの属調であるemollの属和音がamollのドッペルドミナンテになるはずです。
譜例3
この譜例3と譜例2で丸に囲まれた和音を比べてみましょう。この2つの和音は同じものであるはずですが、一ヶ所異なっている部分があります。譜例2の方では第5音がfになっていますが、譜例3の方ではfisになっていますね。さて、どちらがamollの正しいドッペルドミナンテなのでしょうか?
譜例4
正しいのは後の方です。ドッペルドミナンテの本質は「属調の属和音である」ということで、「IIの和音の第3音を半音上げたもの」というのはあくまでドッペルドミナンテの作り方を覚える方法にすぎません。短調のドッペルドミナンテの場合は、「ある調のIIの和音の第3音と第5音を半音上げたもの」とすると、正しいVを作ることができます。
譜例5
短調のドッペルドミナンテについてはこのことに注意が必要ですが、他の点で必要な注意事項はありません。この和音の使い方は長調の場合と同じです。
それでは短調のドッペルドミナンテの作り方について練習してみましょう。次の短いバス課題に、和声記号を参考にしながら和音を付けてみてください。
練習問題
練習問題解答例
ドッペルドミナンテのいろいろな種類
前回の記事ではVとV7それぞれの基本形と転回形について学びました。今回はドッペルドミナンテのいろいろな種類を紹介します。
まずはVの九の和音について学んでみましょう。Vの九の和音は「V9」と記し、Vの和音に、根音から数えて9度上の音を付け加えてできます。V9の和音と考え方は同じです。
譜例6
V9と同じように加えられた第9音は順次下行します。
譜例7
その他の音はVやV7と同じように第3音は順次上行し、第7音は順次下行します。ドッペルドミナンテでも基本的に第3音は順次上行して、第7音と第9音は順次下行するものです。
譜例8
続いて紹介するものはドッペルドミナンテの根音省略形です。この根音省略形の中でも、主に用いられるものはV72とV9の根音省略形です。まず、V72の根音省略形は「V72」と記されます。
譜例9
根音省略形については、以前にV7やV9の和音について学ぶ際に紹介しました。その中でV72の根音省略形であるV72を紹介したことを覚えていますでしょうか? V72も今回習うV72も考え方はほぼ同じです。
このV72の和音は次の譜例のように、上三声に第3音を1つと第7音を2つ用いて、バスには第5音を置くことになります。V72からドミナンテに進む場合は、V72の2つの第7音のうち上に置かれたものは2度下行し、下に置かれたものは2度上行します。第3音はVに進行する場合は2度上行しますが、V7に進行する場合は半音下へ下がります。
譜例10
V72がI2-V(V7)へ進むときは、やはり第3音は2度上行します。そして2つある第7音のうち1つはI2の根音に保続し、もう1つは3度上行することでI2の第3音になります。
譜例11
さて、V9の根音省略形はV9と記します。この和音は転回形で用いられるので「V91」と「V92」、そして「V93」があることになります。
譜例12
くどいようですが、V9と同じようにV9の第3音も順次上行(V7やV9に進行する場合は半音下がる)して、第7音と第9音は順次下行します。
譜例13
ある調の属調の同主短調の属九の和音=V9の準固有和音
そして最後にV9の準固有和音について紹介します。いよいよこのあたりでごちゃごちゃになってきそうですが、改めて簡単に復習をしながら、一つずつ順番に考えてみましょう。
まずドッペルドミナンテは属調の属和音のことでしたね。たとえばFdurのドッペルドミナンテは、Fdurの属調であるCdurの属和音、つまり「g-h-d」の和音です。Fdurには「h」の音ではなく、「b」の音が含まれますが、そのドッペルドミナンテはbではなくhが用いられます。なので次の譜例のように、IIの和音の第3音を半音上げることでドッペルドミナンテと同じ形になるのでした。
譜例14
さてこれは「V」と記され、ドミナンテかI2-V(V7)に進行します。Vの第3音は基本的に順次上行しますが、V7が続く場合は半音下がってV7の第7音になるのでした。
譜例15
さて、FdurのVの根音はgですが、その7度上の音はfです。このfをVに加えるとV7ができます。
譜例16
同じように根音から9度上の音を加えるとV9ができますね。
譜例17
ここで準固有和音について振り返ってみましょう。準固有和音とは、ある調の同主短調に固有な音を用いた和音のことでした。たとえばCdurの同主短調はcmollですが、Cdurにはなくてcmollにはある固有な音とはesとas、bです。でもbは導音としてhになってしまうのでesとasがcmollの固有な音であると言えます。
譜例18
たとえばCdurのV9の第9音「a」は同主短調では「as」になります。なのでCdurのV9の準固有和音は「g-h-d-f-as」となります。これは「○V9」と記されるのでした。
譜例19
これを先ほどのFdurのV9にも当てはめてみましょう。Fdurの属調はCdurです。CdurのV9は「g-h-d-f-a」なので、FdurのV9も「g-h-d-f-a」です。そしてFdurのV9の準固有和音では、Fdurの同主短調(fmoll)ではなく、属調であるCdurの同主短調(cmoll)から取られます。つまりcmollに固有の音であるesとasがFdurのV9に用いられて準固有和音になるわけです。なのでFdurのV9の準固有和音は「g-h-d-f-as」となります。先ほどのCdurのV9の準固有和音と同じ形ですね。ある調の中のドッペルドミナンテの準固有和音と、その属調のドミナンテの準固有和音は同じなのです。V9の準固有和音は「○V9」と記されます。
譜例20
最後に、今回も課題を出します。記載されている和声記号を参考にしてみましょう。
課題
前回課題の解答例は次のとおりです。
前回課題解答例
まとめ
前回と今回でドッペルドミナンテについて紹介しました。ここまでの解説の中で既に気が付いた方もいるかもしれませんが、ドッペルドミナンテの音の進行に関する理論は、Vの和音やV7の和音などのドミナンテの理論と基本的に同じです。ドッペルドミナンテもドミナンテと同様に、第3音は2度上へ上がりますし、第7音や第9音は順次下行します。ドッペルドミナンテはその調の属調の「属和音」であるのですから、属和音と同じ規則が当てはめられるわけです。
「属調の属和音」とか、「同主調に固有な音」とかと考えると少し難しい印象を受けてしまいますが、多くの場合はこれまでの基本の上に成り立っているものです。最初は時間がかかるかもしれませんが、一つずつゆっくりと考えながら課題に取り組んでみてください。