【和声法&対位法】音楽の3要素から考える和声法と対位法

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メロディ リズム ハーモニー 作曲 和声法 対位法 音楽理論 独学 自宅

※連載【はじめての和声法】【はじめての対位法】のおわりに、和声法と対位法の相互理解に役立つ内容をご紹介します。

目次

作曲をするときに大事なもの

作曲をするときに必要な道具は多くありません。必要なものは五線紙と鉛筆だけで、さらにピアノがあれば十分に作曲に取り組むことができます。しかしながら作曲の素材となるものは数多くあります。作曲とは音という素材を用いて行うことなのですが、世の中には多くの音が溢れているのです。その様々な音を加工して作り上げることが作曲であると言えるでしょう。

ところで、音楽の3つの要素として「メロディ」、「リズム」、そして「ハーモニー」が挙げられます。人によっては音色や速度を加えることもありますが、基本的にはメロディとハーモニーとリズムがあってこそ音楽は成り立ちます。そのことを踏まえますと、作曲は音を用いてメロディとリズム、ハーモニーを作り上げることだと考えられます。

しかし、そもそもメロディとリズム、ハーモニーは本当に音楽の要素なのでしょうか? それぞれの要素について例を出しながら考えてみましょう。

メロディの場合

たとえば歌手が伴奏なしで、しかも1人で歌うことがあります(このことを「ア・カペラ」といいます)。ア・カペラにはメロディやリズムはあってもハーモニーは無いように思えます。なぜなら、私たちが一般的に考えるハーモニーとは、複数の人やものがあることが前提とされるからです。

これは音楽に限られた話ではなく、たとえば、人と人とが相互に理解し合えるような関係のことを「心のハーモニー」や「人とのハーモニー」と言ったりして、「ハーモニー」で例えられることがよくあります。そもそも古代ギリシアの人たちはハーモニーを音楽用語ではなく、もっと広い意味での「調和」として考えていたようです。

このように考えてみますと、ハーモニーとは複数の人やものがあることを前提としていますので、ア・カペラにはハーモニーは存在し得ないような感じがします。

しかし、メロディがあるならばハーモニーも無意識で感じることができると考える人もいます。次のメロディを見てください。

譜例1

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これはまさにメロディとリズムだけでできているような旋律ですが、これに合ったハーモニーをつけると次のようになります。

譜例2

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ぜひ、この譜例2をピアノで弾いてみましょう。メロディとハーモニーがカッチリと合っているような印象を受けるのではないでしょうか? たとえば、和声法ではメロディにハーモニーをつける「ソプラノ課題」と呼ばれるものがありますが、そのソプラノ課題で取り組むことはまさにこの譜例1から譜例2にするようなハーモニーをつける作業です。では、極端な例になりますが、試しに次のようにハーモニーを付けてはどうでしょうか?

譜例3

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こちらはメロディとハーモニーが全く合っていないような変な感じがします。このように1つのメロディには合うハーモニーと合わないハーモニーがあり、適したハーモニーは限定されているということがわかります。つまり、メロディの背景にはそのメロディに合ったハーモニーが隠されていて、人は無意識でそれを感じているのです。ア・カペラであってもメロディとリズム、そしてハーモニーで成り立っていると言えます。

リズムだけでできている作品?

たとえば、様々な音楽のジャンルにドラムやシンバルだけで演奏される作品があります。ジャズでもドラムのソロがあったりしますね。このような場合、リズムははっきりと存在していますが、メロディやハーモニーは存在していないような印象を受けます。

しかし、ドラムやシンバルの音でも、それが音である以上、その音には音の高さがあります。全て同じように聞こえるシンバルの音でも、より高い音を発するシンバルも、より低い音を発するシンバルもあるのです。そして高さの違う音が2つ以上あれば、それでメロディを作ることができます。たとえば、私たちがよく知っているメロディの中にも少ない音で作られているものがあります。

譜例4

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これは童謡『ほたるこい』のメロディですが、dとfとg、aの4つの音のみで旋律が作られています。それでも私たちはこの作品をメロディとして感じますね。ドラムやシンバルのような音でも、音である時点でそれぞれには音の高さがあり、数は少なくても複数の音の高さがあれば、メロディを作ることができるのです。そして、先ほどのア・カペラの例で考えたことを踏まえると、メロディがあるのであればそこにはハーモニーも隠されていると考えることができます。

ハーモニーを補うものについて

ハーモニーのみでできている音楽は私の知っている限りは無いのですが、魅力的なハーモニーの例として次の作品を挙げます。

譜例5

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(コーラス)

(ピアノ)

これはモーツァルトの『アヴェ・ヴェルム・コルプス』の冒頭部分。モーツァルトの作品の中でも美しい作品として人気のある合唱曲です。この作品の魅力はそのハーモニーの美しさにあると思われます。譜例5をまとめて、ハーモニーだけを取り出してみると次のようになります。

譜例6

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これだけでもハーモニーの美しさを実感できますが、それでもなんとなく物足りない感じがします。やはりメロディやリズムがあることでこの作品の美しさは完成されていることがわかります。そしてまさにこのことから、メロディとリズム、ハーモニーが音楽の3要素であるということが実感できますね。

音楽の3要素を理論化したもの

以上で考えてみましたように、メロディリズムハーモニーは音楽であるならばそこに含まれているものであり、音楽の重要な側面でもあります。そのために、メロディの作り方やメロディの重ね方に関する理論として対位法が、ハーモニーの作り方やハーモニー同士の繋げ方に関する理論として和声法があるわけです。リズムに関しては、リズムのみに特化して作られた理論はないのですが、対位法の中で良いリズムの作り方について触れることがあります。

このように考えてみますと、音楽理論には管弦楽法や楽式論など、様々な理論がありますが、その中でも和声法と対位法はより重要で、代表的なものだと言うことができそうです。そして、この2つの理論をお互いに補い合うような関係で作曲に用いることが理想的です。

私が学生の頃に、「和声法に取り組むときは対位法について考え、対位法に取り組むときは和声法について考えなさい」と先生からよく言われました。その時に例として出されたのが家作りの例です。

たとえば、家の土台をバスのメロディ、家の柱をハーモニー、そして家の屋根や装飾などをメロディとします。ある土台の上にどのような屋根をつけるのか考えるためには、どのような柱でその家を支えるのか念頭に置かなければいけません。対位法の中でもあるメロディの上に別のメロディを重ねる際には、それらをうまく調和させてつなぎ合わせるハーモニーについて考えることが必要になります。

また、柱を立てる際は、土台となる部分や屋根となる部分がどのようなものなのか見極めることが必要です。それによって柱の種類が変わってくるためです。和声法の中ではバスやソプラノのメロディによってそのハーモニーも決まってくるわけです。

つまり、対位法とは音楽の横の流れであるメロディとリズムについて、和声法とは音楽の縦の響きであるハーモニーについて考える際に重要な理論であり、横の流れを思い描く際には縦の響きに注意して、縦の響きを考える際には横の流れを意識することが大切です。

まとめ

今回は音楽に必要な3つの要素を、それぞれが本当に必須の条件なのか、例を挙げながら考えてみました。メロディリズムだけでできているようなア・カペラの作品にも実はハーモニーが隠され、リズムだけでできているようなドラムのソロからもメロディを聴き取ることができ、さらにそこからハーモニーを感じることもできました。そしてハーモニーだけを取り出した作品からはどこか物足りないような印象を受け、だからこそメロディとリズムとハーモニーが音楽にとって欠かせない3つの要素であることが実感できました。

そして、この3つの要素のうち、メロディとリズムは対位法によって、ハーモニーは和声法によって理論化されていて、それぞれを1つの作品の中で共存させることが理想であります。しかしそれは同時に、それらをどのように共存させるのかという課題も提示します。さて、それではそのような共存関係を作曲家はどのようにして作りあげたのでしょうか? このことについて次回から考えていきたいと思います。

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